第35話
ーーーー・・・?
なんとなく背後に視線を感じた。
振り返るも、手を繋いだ親子の姿が1組見えただけだった。
・・・・・気のせい、か。
マンションに着いてエレベーターに乗りこみ、いつものように3階のボタンを押した。
ゆっくりと閉じられる扉があともう数センチというところで、
「・・・・・・・・・っ」
ガタンっという音とともに、再び開かれた。
大きく目を見開いた私の前に立っていたのは、
「す、すみません!」
息を切らした"穂高さん"ではなく。
「乗ります・・・っ」
ーーー森さんだった。
び、吃驚した。
森さんはぺこりと頭だけ下げながら、私の隣に並んだ。
初めて見た時の完璧な装いの彼女とは違い、同じようにスーツは着ているものの、まとめた髪はしゃっと乱れ、眼鏡も少し斜めにズレてしまっている。
けれどそれを直せないのは、両手一杯に抱えた荷物のせいだろう。
「3階、ですよね?」
「え?」
森さんは私にしっかりと視線を向けると、あっと何かに気づいたような表情を一瞬見せた。
「そうです、すみませんお願いします」
彼女はボタンすらも押せない状態だった。
危険だというのに、彼女は足を挟んでエレベーターを強引に開けさせたのだ。
申し訳なさそうにはにかんだ森さんに、私は軽く微笑み返してから、再び"閉"のボタンを押した。
扉は今度こそ完全に閉じられた。
横にいる森さんの荷物を横目で観察すると、腕の中にはティッシュやトイレットペーパーなどの生活用品が積まれている。
それから手にかけられたビニール袋の中には1人分のお弁当とーーー
「野良ちゃんにですよね、それ」
そう言って猫の缶詰めの入った袋を指差した。
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