第34話

「ねぇ、史」




「うん?」




「身内の贔屓目なしに、史は見た目も中身もすごく可愛いと思う。史は私の自慢の妹なの」




「・・・・カエちゃん」




「私は希和さんがどんな人なのかは知らない。だけど愛し合ってる恋人同士であれば、釣り合うとか釣り合わないとかそんなこと絶対にないから。だからそんな悲しいこと言わないで」




「・・・・うん」





胸がちくりと痛んだ。




母は昔から能天気というか、自由奔放な人だった。反対に父はとにかく無口な人で、母のやることに決して口を出さない。



だからそんな皆原家をまとめる役割を果たしていたのが、しっかりもののカエちゃんで。



私も進学や就職のことも、両親ではなくカエちゃんに相談していた。カエちゃんもいつだって親身になって応じてくれた。



そんなカエちゃんに希和の存在すらも話せずにいたことは、私もずっと胸が痛かった。




けれどもし正直にすべてを話してしまったら。




その時のカエちゃんの表情を思うと、やっぱりどうしても言えなかった。






ーーーだけど、





「史が本当に幸せなら、私は何も言うことはないのよ」






私が隠そうとする感情に、カエちゃんが何も気付かないわけはなくて。




別れ際、念を押すかのようにそう言われた。

















希和と約束した夜までにはまだ時間があったから、私は一度部屋に戻ってメイクをやり直すことにした。



カエちゃんに貰った新しいコスメを使って、希和に会いに行こう。




でなきゃまたきっと、これも眠らせてしまうことになるだろうから。



カエちゃんはああ言ってくれたけれど自信なんて簡単には持てないし、そもそも私の求めるものが高望みすぎるのがいけないことも理解している。



それでもカエちゃんの気持ちはやっぱり嬉しかったんだ。







駅から私の住むマンションまでは、徒歩10分くらいだ。



大通りからは1本入った通りにあるのだけど、幾つかのマンションや公園もあったりするからそれほど人通りが少ないわけでもない。



きちんと整備された通り沿いは緑も豊富で、歩くのも苦ではなかった。



今は気温もちょうど良いし、これで晴れていてくれていたならもっと気持ちよかったのに。



くすんだ灰色の空を、恨めしく見上げた。

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