第32話

「へーえ。やっぱり彼氏、いたんだ」



「いたんだー!」







通話を終えた直後だった。



背後から聞こえた声に振り返れば、にやにやと楽しそうに笑う親娘の姿。




「キワさんって言うの?かっこいい名前ね」



「かっこいー!」




席に着きながらも、こちらに向けるニヤケ顏は治らない。




「・・・彼氏じゃなくて、女友達かもしれないじゃない」




"希和"という名前は女性でもあり得る名前だ。




「ないない。声とか口調とか、私たち家族や友達に対するものとは全然違ったもの。お姉ちゃんにはわかるわ」



「・・・・・・・・・」




そうなんだ。



自分では全く同じなつもりだったけど。




「で?いつから付き合ってるの?最近の話じゃないわよね。かなり前から怪しいなとは思ってたから」




もう絶対に逃してもらえないと察した私は、しぶしぶ白状した。




「・・・もうすぐ付き合って5年になる」




すると予想どおり、カエちゃんの目と口がみるみるうちに広がった。


さすがのカエちゃんも、まさかそんなに前からだとは思っていなかったのだろう。




「・・・・驚いた」



「うん、黙っててごめんね」



「そんなに前から・・・・。それで?相手は一体どんな人なの?仕事は何してるの?どうやって知り合ったの?優しい?」




相次ぐ問いかけも、茶化すわけでもなく真剣な眼差しだった。



寧々はすでに私たちの会話に興味がなくなったようで、膝の上に絵本を広げていた。




「職場に来ていた会計士さん。今はもう担当じゃなくなったんだけど。・・・・すごく優しくて、私にはもったいないくらい素敵な人だよ」




難関といわれる国家資格を必要とする職業は、必然的に社会的信頼度も高い。



妹の恋人はそんな職業に就き、尚且つ素敵な人だと言ったにもかかわらず、カエちゃんの表情はどこか曇りがちだ。

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