第31話

あの頃は友達以上になんでも話していたから、カエちゃんはすべて事情を知っていた。



だから私が仕事を辞めた理由も引っ越した理由も、両親にはカエちゃんが上手く誤魔化してくれた。



あの時は本当にすごく迷惑をかけてしまったけれど、カエちゃんがいたから私は思ったよりも早く立ち直ることができた。




ーーーそれに。




あのことがあったからこそ、今の職場で希和に会うことができたんだ。



希和に出会えて、どん底に思えたあの時の苦しみや悲しみにも感謝できたのだから。




人生って本当、何が起こるかわからない。













「ねぇママ、寧々トイレ行きたい」




寧々が小さな手でカエちゃんの腕を揺すった。




「え、嘘。ちょっと待って。ごめん史、ちょっと行ってくる」



「うん、いってらっしゃい」




寧々の手を引いて、カエちゃんはレストラン内へと入っていった。



バッグから取り出したスマホを見ると、希和から着信があった。



しかもほんの5分前に。



私はタップして、スマホを耳に当てた。





『もしもし、史?』




するとすぐに、心地いい希和の声が聴こえた。





「うん。ごめんね、電話出れなくて」



『いいよ、こっちこそごめん。今日って確かお姉さんたちと食事だったよな。かけてから気付いた』



「そう。だけど今は寧々・・・姪っ子をお手洗いに連れていってるから大丈夫だよ。それよりどうかしたの?」



『実は明日の午前中のアポが急遽なくなったんだ。だから史が大丈夫なら、今日の夜から会えないかなと思って』



「ホントに?」





希和とは明日の午後から会う約束をしていた。



希和が丸一日休みなんて久しぶりだ。




それでも喜びすぎてしまうと、あまり仕事で会えないことが不満だと思われてしまうかもしれない。




「私なら大丈夫だよ。じゃあ今夜、希和の部屋に行くね」




希和の負担にはなりたくなくて、私は控えめなトーンでそう返した。

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