第28話
「穂高は、俺だけど」
え・・・・・・・・
「挨拶って。たぶんそれ、森ちゃんだな」
「も、森ちゃん?」
「俺の担当編集者」
編集者って。
この人って何者・・・・?
「森ちゃんに引っ越しの挨拶に行ったほうがいいって言われてさ。面倒だから代わりに行っといてよって冗談で言ったんだけど。ホントに行ったんだ、森ちゃん」
じゃああの女性は穂高さんじゃなかったんだ。
お隣の住人は、この人1人だったんだ。
「つーか声って。そっかそっか。皆原さん、あの夜、あの女の声聞いてたんだ」
「・・・・・・っ」
「ま、すっげぇ声デカかったもんな」
からかうような声質に、私は思わず赤面してしまう。
「わっ、私!そろそろ仕事に行くので失礼しまます!」
笑い声とともに「いってらっしゃーい」という
"穂高さん"の愉しげな声が聞こえた。
いろんな意味で、心臓がバクバクした。
"穂高さん"って、
男の人だったんだ・・・・ーーーーー
ーー・・・
ーーーー・・・
「数日遅れだけど、お誕生日おめでとう」
「おめでとーっ」
「ありがとう、カエちゃん、寧々」
その週末の土曜日。
心地良いオープンテラスのあるレストランで、姉のカエちゃんと姪っ子の寧々がお祝いしてくれた。
実家があるのは隣の県なのだが、姉夫婦も都内で暮らしているので、両親よりも姉のほうが会う回数が多かった。
6つも年が離れていることもあり、昔から姉は私をすごく可愛がってくれていた。
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