第19話

「史」







そう名前を呼ばれて顔を上げると、少し息を切らした希和が立っていた。



周囲を行き交う女性たち数人が、ちらちらと希和に視線を送っていく。



何度見ても見惚れてしまうほど、整いすぎた綺麗な顔。



180cmを超える長身に完璧に着こなしたスーツ姿は、モデルや俳優に見間違うほどで、ただの会計士になんて見えなかった。




5年も付き合っているというのに、今でも希和に会うだけでドキドキしてしまう。







「お疲れさま。・・・走ってきてくれたの?」




「史は待ち合わせの時間よりいつも必ず早く来るから、俺も遅刻しないよう必死だよ」






希和は腕時計で時間を確認しながら「頑張ったけど3分遅刻だ」と苦笑した。




「私が好きで勝手に早く来てるだけだから気にしないで。希和の仕事のタイトさは、ちゃんとわかってるから」




忙しい希和を1分1秒でも待たせるなんて、絶対にしたくなかった。



だけどそれが希和の負担になるのなら、次からは時間ぴったりに来ようかな。





「・・・俺の彼女は出来すぎだな」



「じゃあ希和はすごく幸せ者だね」



「そうだな」





希和の嬉しそうな笑みを見て、私は心からほっとしてしまう。




慣れたように差し伸べられた手に、私も自然と手を伸ばした。









「お誕生日おめでとう、史」




「・・・・ありがとう」






繋がれた手が離れないようにと、しっかりと握りしめた。

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