第18話

『でもね、史。史からそういう相手がいるとかそんな話でさえもまったく聞いたことがないんだから、お母さんだって心配くらいして当然でしょう?』




「心配しなくたって、私だってそれなりに結婚のこと、ちゃんと考えてるよ」




『考えてるだけじゃ結婚なんてできないの。史のことだから、どうせ毎日会社と家との往復なんじゃないの?もっと自分から行動起こさないでどうするの』





・・・こんな母親だ。



そう気安く恋人の話なんてできないのも仕方がないと思う。




『出会いがないって言うなら、今ってほら、お見合いだけじゃなくって婚活パーティーっていうのもあるんでしょう?そういうのに一度参加してみても・・・・』




「ねぇお母さん。私そろそろ仕事行かなきゃならないんだけど」





人の誕生日をチャンスとばかりに、結婚の猛プッシュをするのは止めてほしい。




私は母の話を強引に遮った。





『え、もう?早いわねぇ』




「その話はまた実家に帰ったときにでも聞くから」




『そう言ってなかなか帰って来ないじゃない』と電話を切る最後の最後まで文句を言われた。





希和の存在を知らない母が、30歳を目前にした娘の心配をしてしまう気持ちもわからないでもない。




だけどなにも、誕生日にまで言わなくても。




久しぶりの希和とのデートに、朝から上々だった気分も一気に下降気味だ。




見上げた空はくすんだ白い雲に覆われていて、晴れ間はほとんど見えなかった。



















希和と待ち合わせたのは、アマンまで徒歩5分の距離にある最寄りの駅だった。




待ち合わせ時刻の15分前に到着した私は、改札口を出てすぐの隅にある柱の前に立った。



希和も電車で向かうと言っていたから、ここにいればすぐに気付くだろう。








「今夜デートなんだ?」




予想通り私の格好を見た三上さんに、朝一でそう指摘された。



けれど続けて、




「じゃあ今日は皆原ちゃんに、残業させないようにしなくちゃね」




と言って貰えたので、それはすごく有り難かった。

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