第16話

けっきょく仕事帰りにそのまま向かうからと、キャメルのスキニーパンツに、トップスはヴィンテージな雰囲気が素敵なアイボリーのレースのブラウスを合わせることに決めた。



普通のOLさんにしては少し派手めだろうけど、一応デザイン事務所であるうちの会社ではこれくらいは許容範囲だ。




ワンピースはまた別の機会にしよう。




決定したブラウスをハンガーに掛けていると、






「・・・・・・?」





短く甲高い声が微かに聞こえた気がした。




・・・・気のせいだろうか?






手を止めて、もう一度耳を澄ます。






ーーーー・・・






「・・・・猫?」





"あ"とか"あー"という高い鳴き声は、もちろんこの部屋からではない別の場所から聞こえるもので。




「だけどここは3階だし」




このマンションはペットも禁止されている。





私は窓を開け、こっそりベランダに出てみた。




すると、





「・・・・・・・・・!」





先ほどより鮮明に聞こえた"鳴き声"に、私は顔色を真っ赤に変え室内へと慌てて戻った。





猫じゃなかった。



あれは多分ーーー女の人の"喘ぎ声"。





それが聞こえてきたのは、引っ越してきたばかりの"穂高さん"の部屋からだった。



彼氏でも連れ込んでいるのだろうか。




だけど・・・・・・



挨拶に来た時の姿を思い浮かべ、そういう行為とはイメージがあまりにかけ離れた"穂高さん"に、私の顔はさらに熱を上げた。




でも、そうだよね。




地味OLだろうが関係ない。



そんなの恋人がいたらべつに普通のことだし。






"穂高さん"の声が大きいのか、このマンションの壁が薄いのか。



今までまったく気にしたことがなかったけど、私も気を付けよう・・・・・・。




火照った頬を、パタパタと手で煽った。

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