第14話

丸一日休める休日が月にほんの数日しかないほど、希和は多忙な人だ。



櫻井会計事務所に勤務する一会計士なのだが、中でもトップの人気を誇る彼は多数の企業から引っ張りだこなのだ。



希和は本業の会計だけにとどまらず、中小企業診断士、経営士、行政書士、宅建など複数の資格を持つ知識の豊富さから、必要に応じて同時に経営コンサルのようなことも行っているらしい。



うちのデザイン事務所も希和のおかげで軌道にのることが出来たと、社長はよく口癖のように話している。



そんな有能な希和は、会社の方針としては当然だが、大企業を優先的に担当させる為に、うちのような小さな企業の担当からは外されることになったのだ。



けれどうちの社長は、今でも何かあると直接希和に電話して相談にのってもらっているのだとこっそり教えてくれた。



そうしているのはきっとうちの社長だけではないはずだから、休みなく働く希和の身体のことが私はいつもすごく心配だった。






「史、それで明日なんだけど」



「え?」



「もしかして忘れてた?明日19時にアマンに予約入れておいたから」



「え!予約って、本当に取れたの?!」





アマンとは1日にお客がたった7組限定の、隠れ家的フレンチレストランだ。



料理が素晴らしいのはもちろんだけど、お店の外観や内装までもがとても素敵で、有名なインテリア雑誌で紹介されていた。



あまりの人気に、予約は2年先まで埋まってしまっているほどだ。



会社に置かれていたその雑誌を見て以来、いつか行ってみたい憧れのお店になった。



希和にも何気なく話したことがある。



そのとき希和がなんとかできるかもしれないと言っていたのだけれど、まさか本当になんとかできてしまうなんて。





「言っただろ。クラインアントにアマンのオーナーと知り合いがいるって。さすがに職権濫用はこれが最初で最後にするつもりだけど」




驚きと嬉しさと・・・少しの戸惑いに、言葉が詰まってしまった。




「史?聞いてる?」



「う、うん・・・聞いてる」

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