第13話

「へー、やるわねその彼」



「忘れたのだってきっとわざとですよ!皆原さんが追って来るのを待ってたんでしょ」



「皆原さんってば、ちゃっかりオフィスラブしてたんですねー」





みんな口々に言いたい放題だ。



あの日のことを、三上さんが知っていたのには驚いた。



確かに三上さんの言ったように、あの日私は彼が忘れた書類を渡す為に慌てて彼の後を追いかけた。



だけど、三上さんが言った内容の全てが事実ではない。



それでも私が否定するのを止めたのは、いろんなことを深く詮索されるのが厄介だと思ったからだ。



三上さんや千家さんたちとは、こうして時々お昼を一緒にしたりと親しくはして貰ってはいるけれど、プライベートで会ったりするまでの関係ではない。




だから下手にすべてを話すことに、抵抗があった。



私たちの始まりについては、出来ればあまり知られたくはなかった。


























『もしもし、史?』





19時過ぎに帰宅し1人分の夕飯を作っていると、テーブルの上のスマホが鳴った。




ディスプレイに表示されていたのは、今日のランチ時の話題での中心人物。





「希和?もう仕事終わったの?」




『いや、まだだよ。今は最後のクライアント先に向かう移動中』





そう言われて耳をすませば、ガサガサと動いている雑音が希和(キワ)の声と共に聞こえた。





「今日も大変そうだね。お疲れさま」




『史はもう家に着いたの?』



「うん。ちょっとだけ残業して、少し前に帰ってきたとこだよ」



『そっか。最近は会えないどころか、なかなか連絡すらもできなくてごめん』



「・・・ううん」





そんなこと、全然気にしなくたっていいのに。



希和には見えないとわかっていても、私は懸命に首を振ってしまう。

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