第8話
デザイン事務所と聞くと響きは良いが、資格も専門的な知識も何も持たない私の仕事は、デザイナーや営業の補佐、お客様へのお茶出し。
つまりはただの雑用係だ。
それでも日々やることは多いし、やり甲斐とまではいかなくとも、それなりにプライドを持って仕事はしている。
「ねぇ、皆原ちゃん。久し振りに今日のお昼どう?って、千家さん達からのお誘い」
「あ、はい。いいですね」
お客様へのお茶出しを終えてデスクに戻ると、私よりひとつ年上の三上さんがこっそり話しかけて来た。
「場所は"キッチン花子"だって」
「了解です」
「ん、じゃあとでね」
そう言ってすぐに三上さんは、少し離れた席に戻っていった。
三上さんはうちの事務所に3人いるデザイナーのうちの1人で、私以外で唯一の女性社員だ。
仕事っぷりやハキハキとした性格は、男性顔負けだけど。
そして三上さんの言う"千家(センゲ)さん達"というのは、このビルの2階に入っているリース会社の社員3人のこと。
年齢も近いこともあり、顔を合わせるうちにときどきお昼を一緒にするくらいには親しくなった。
「なんかすごい久し振りな気がするー」
「ホントホント」
事務所から歩いて5分の距離にある"キッチン花子"に着くと、すでに千家さん達が席を取っていた。
「あーごめん、私がここ最近ずっと缶詰めだったからね。お昼にまともなもの食べるのも久々かも」
三上さんはショートボブの前髪をくしゃりとかきあげながら苦笑した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます