第7話
「穂高先輩、か・・・」
一人暮らしの部屋にぽつりと舞う。
久し振りに口に出したそれは、本人には一度も呼び掛けたことのない呼び名だった。
新しい隣人である"穂高さん"は、仕事帰りなのか、グレーのパンツスーツに黒髪をきっちりタイトに纏め、顔には眼鏡がかけられていた。
真面目を絵に描いたような風貌の、地味系OLさんといった感じ。
マンションの隣人なんてほとんど関わり合いなんてないけれど、ちゃんとしていそうな人が住んでいてくれた方が安心感がある。
もちろん、"穂高さん"は合格点だった。
「皆原さん、これ印刷回しといて」
「はい、東和でいいですか?」
「そこが最短だっけ?じゃあいいよ」
USBを受け取り、自分のデスクのノートパソコンにそれを差し込む。
すると今度は、
「皆原さーん、上にお茶よろしく」
受話器を片手に持つ部長から、声がかかった。
「はい、わかりました」
私は座ったばかりの椅子から立ち上がり、給湯室へと向かった。
私が勤務するこの会社は社員が15名ほどの、広告やパッケージなどをデザインする小さなデザイン事務所だ。
6階建てのテナントビルのうち、3階と4階のフロアをうちが借りている。
ちなみに1階はパン屋さんなので、昼食によく利用したりととても便利な環境だ。
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