第1章

第6話

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「さい、あくだ・・・・・・」







久し振りに夢に見た、昔の淡く苦いだけの恋。




もう10年以上も昔のことなのに、どうして今さら。



当然、目覚めはよろしくはなかった。













肩より少し長い髪を無造作にひとつに纏めながら、ベッドを抜け出す。




真っ直ぐキッチンへ向かおうとした途中、テーブルの上に置きっ放しにされたビールの空き缶が目に止まる。




と同時に、その横に置かれた"穂高"と書かれたのし付きのタオルも。






・・・・あぁ、そうだった。





しばらくずっと空き部屋だった隣に、昨日引っ越してきたというお隣さんが挨拶に来たのだ。









『穂高と申します。よろしくお願い致します』







よくある名字ではないけれど、それほど珍しくもない。




久し振りに聴いた響きに、ほんの少し動揺してしまった自分が恥ずかしい。




たかがそれだけのことで、私のものではない缶ビールを開け、あの頃の夢まで見てしまうなんて。




この先、何かが起こるわけなんてないのに。

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