【企画】起きたら銃を持ってる敵が隣にいた。

虹空天音

昼寝の後の銃撃戦

 あのゴミブラック企業が。

 私は不満を心に押しとどめて、顔をしかめる。さっきから眠くて仕方ない。


「昨日から睡眠ナシ、しかも残業で朝っぱらまで働かせやがって!」


 今度はとどめきれずに口から不満が飛び出た。

 私は女だからよくなめられる。仕事が溜まりに溜まるわけだ。


 今日も早朝まで仕事。

 ビルに乗り込んで社員を全員殺す。そんなの別の人でいいよね? 私である必要ないよね?


 あー、もう眠くて仕方がない。やばい。睡魔にはさすがに、私の戦闘力でも勝てん。敵地とはいえ、敵は全滅させておいたし。


「……帰る気力ない。寝よ!」


 いつもの昼夜逆転。時計を見れば朝十時。寝っ転がればもうまぶたが落ちた。



 *



 ぱちりと目が覚めた。

 私の体に影がかかっている。扉が開いていた。


 口元をマスクで隠した、がたいのいい男。手には拳銃。その標準は、明らかに私を狙っている。


「チッ!」


 急いで壁の裏へ走る。反射神経のおかげで、銃弾は髪に掠る程度で済んだ。


「おいおいおい! いきなりすぎるだろ!」


 男は拳銃を撃つ手をやめず、正確に頭を狙ってくる。それを必死によけながら、腰に取り付けた拳銃を手に持ち、私も撃ち返す。


 それは男の頬にかすった。


「あぁ⁉ 威勢は良くてもよけ方は下手か⁉」


 女だからって、男に勝てないわけがない。引き金を引く手を止めず、ポケットに突っ込んだ弾丸の予備を取り出す。

 そしてまた、予備の拳銃にも装填し、二丁拳銃で火力を上げた。


「……強いな」


 男がぼそりとつぶやく。

 私は発砲音からわずかにその言葉を聞き取った。


「どんだけ、この業界で生き抜こうとしたか、分かるか⁉」


 親は小さい頃どっかに消えた。私はこの業界に売られたのだ。女だから、こっちの業界でもいらないもの扱いされた。

 だからこそ、生き抜く、見返すために努力してきたのだ。


「……別のアジトで昼寝を終えてここに来たと思えば、お前なんかと戦うことになるとはな」

「へっ? 昼寝?」

「……ああ、そうだが」


 私は相手の放った言葉が理解できず、一瞬固まる。そういや私も昼寝していたんだった。

 なんで戦ってる相手も、私と同じ状況なんだよ。


「プッ! なんでだよ、私も今寝起きなんだけど」

「いらない偶然……」


 さすがに相手も呆れる。弾がブレて、拳銃がカチカチと音をたてて使い物にならなくなった。

 相手も、拳銃を捨てている。


「やっぱ、強いな、女」

「女って呼ぶな。コンプレックスなんだよ」


 男はこちらを向いて、そのまま格闘とかしてくるわけでもなく、少し笑っていた。


「お前は、俺を殺すか?」

「……いや、もう私は、会社に所属してねえ。お前を殺す理由はない」


 私は少し考えて答える。

 あのブラック会社に戻りたくはない。本来なら、昼寝などせず、会社に戻らなきゃいけない。

 あの会社から逃げてやろうと思っていた。


「じゃ、いっしょに別の会社いかねえか? お前ほどの戦闘力なら、全然いけると思うが」

「怪しい」

「それならこのあとどうするんだよ」


 私と男の笑い声が響く。昼寝してよかった、とちょっと思っていた。投げ捨てた銃も、寝起き同士の銃撃戦も。


「行くとこないから、ついて行ってやってもいい」

「そうか。そこは多分、女でも差別しねぇよ」


 男と笑い合って、ビルから一緒に出る。

 明るい日の光が、私たちを包み込んでいた。



 終

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【企画】起きたら銃を持ってる敵が隣にいた。 虹空天音 @shioringo-yakiringo

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