第6話 殺伐?としたバレーボール

「———じゃあ今から、合同バレーのチームを発表していくぞ。まずはAチームから行くぞ、秋山……」


 そう告げるのは、鬼瓦半蔵おにがわらはんぞうという厳ついを通り越して恐怖すら感じる名前の40歳妻子持ちの若干強面な体育教師。

 彼の言葉を皮切りに、運命のチーム分けが始まったわけであるが……。


「おいおい柚月ちゃん、もっと盛り上がっていこーぜ?」

「……何で、アンタと……マジ最悪。それと、次ちゃん付けで呼んだらビンタね?」

「怖っ。バレーボールが避けれないタイミングで目の前に飛んでくる時より怖いんですけど」

「例えが長い」

「手厳しい」


 柚月はどうやら俺と同じチームになったことに不満を持っているらしく、露骨に嫌そうな顔を浮かべてため息を吐いていた。酷くね?

 因みに海人と詩織はもちろん同じチームだ。

 やっぱり2人は運命の糸で結ばれているのだろう。


 さっさと付き合っちまえよっ!

 てか柚月の奴、体力テスト学年9位の俺のチームで一体何が不満なのか……全く、我儘な子ね! 

 お母さん好き嫌いは許しませんよ!


「アンタが親とか死んでも嫌。親ガチャ失敗ね」

「そこまで言う? 多分俺なら良いパパになれると思———あっぶね、危うくスルーするところだったわ」

「何が?」

「俺の頭の中を覗かないでください」

「は? 誰が覗くのよ、琢磨の頭の中なんか」

「え?」


 心底意味が分からないと言わんばかりの不思議顔でポニーテールを揺らしながら首を傾げる金髪ポニーテールギャルの口撃はまだ終わらない。


「というか、アンタの頭なんか覗いた日には馬鹿が感染るじゃない。そんなの絶対嫌よ」

「先生! 何もしてないけど心に深い重傷を負ったので保健室に行ってもいいですか!?」

「間宮先生は居ないぞ」

「ならいいです」

 

 俺の狙いを当然のように言い当ててくる鬼瓦先生のシゴデキ具合には感服です。

 ついでに横で軽蔑の視線を向けてくる金髪ギャルの対処法も教えてくれませんか?


「あ、アンタねぇ……欲望に忠実過ぎるでしょ」

「や、あの人でしか得られない癒しがあ———ウェーイ慎吾! お前も同じチームとか勝ちゲーじゃん!」

「ウェーイ、優勝は俺等のモンだぜ!」

「ば、馬鹿が2倍に……」


 俺がジト目の柚月の追求から逃れるように、こっちに嬉しそうに近付いてくる慎吾へハイテンションでハイタッチをすれば、頭が痛いとばかりに眉間に皺を寄せて額に手を当てる柚月。

 だが、俺にも言い分がある。


「柚月、慎吾と同類はやめて欲しいんだけど」

「あぁ……確かに流石の琢磨でも可哀想よね。悪かったわ」

「ふっ、良いってことよ」

「全然良くないが!? お前ら酷くないか!?」

「「全然」」

「チクショウが!!」


 不服だといった風に声を大きくする慎吾に、俺と柚月は真顔で告げる。

 対して慎吾は悔しそうに地団駄を踏んでおり、普段はそっち側の俺からすれば大変気分の良い光景である。一生この光景がいい。


「でも、盛り上がるのは同レベルだけらしいって聞いたことが……つまりそう言うことよ、琢磨」

「あれっ? 今回くらい最後までいい思いさせてくれも良くない?」






 





「———いくぞ悠真山口ぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「なぜに英語の名前呼び!?」

「うるせぇクソ野郎! やっちまえ、琢磨!!」

「コイツら怖すぎないか!?」


 俺と慎吾から罵声を浴びた悠真が驚きの声を上げながらも、俺のサーブをギリギリでチームの女子が返しやすいように受け止める。

 つまりは余裕があるってことだ。


「許さんぞぉ……チーム全員女子とか……断じて許さねぇぞぉ……」

「怖いってマジで。お前らは柚月ちゃんと前橋さんいるんだから良いじゃん」


 俺の怨嗟の籠もる言葉に若干引き気味の悠真とその仲間のクラスの女子達。皆んなお顔が可愛いですね。


 余談だが、ウチのチームは俺、柚月、慎吾の良く話すメンツと、ちょこちょこ話す佐伯と広瀬の陸上部男子2人に———目元を前髪で隠しているものの、実は相当な美少女で有名なクラスの女子である前橋さん。

 しかも彼女は身長が160くらいあってお胸も大きい。待って、今の俺って外見でしか女子を判断していないクソ野郎では?


「今更ね」

「味方から強烈なスパイクが飛んできたんだけど。審判、チェンジをお願いします」

「えっと……」


 柚月からのナチュラル思考読み&罵倒に大怪我を負った俺が上げた言葉に、審判をしていた同じクラスの男子———秋山君が困った様に苦笑を浮かべる。

 その様子を見ていた柚月が俺に呆れを孕んだ瞳と指を差しつつ言った。


「コイツの言葉は全部気にしなくても良いわよ、秋山」

「あ、はい。じゃあ却下ということで……」

「柚月が審判を買収したぞっ! 卑怯だ!」

「アンタは少し落ち着きなさい。あと、私達はもう負けたからコートを出るわよ」

「あいたっ」


 俺の頭を叩くそこそこの力で柚月。

 ただそのお陰で女子と合同と言うことで少々バグり散らかしていたテンションが冷めて来た。

 これ以上はリアルで怪我しそうだったので、柚月様々である。


「いやぁごめん。ちょっとテンション高かったわ」

「ちょっとどころじゃないわよ。他の人に迷惑かけるのはやめなさい」

「はい、肝に銘じます」


 俺は大人しく柚月の言葉を受け止め、コートの外に出て胡座をかいて座る。

 続いて柚月が俺の隣に座ったかと思えば、膝を抱えてとある場所に視線を向けた。

 大方何処を見ているのか分かるものの、彼女の視線を追い……仲睦まじくバレーボールを楽しんでいる海人&詩織チームに目を向ける。相変わらず癒やされる。

 同時にスパイクを打つためにジャンプした詩織の姿———正確には詩織の胸———を見て大きく目を見開いた。


「お、おぉぉぉぉ……!! ゆ、揺れてる……!!」

「隣に私が居るのを忘れてないかしら?」

「海人達は和気あいあいとしてて良いなー」

「話を逸らすな。というか殺伐とした空気を作ったのはアンタと慎吾でしょうが」


 そうジトーっとした目と共に横腹をつついて来る柚月。

 地味に力が入ってて痛い。痛っ、ちょっ、やめっ……。


「脇腹を突くのはやめて貰おうかっ!」

「親友を下品な目で見た仕返しよ。幾ら私と違って詩織がおっぱい大きくて、顔も可愛くて完璧な子だからって、アンタが見ていいわけないじゃない」

「……それもそうだ」


 流石詩織の親友。

 自分の認めた男子———海人以外は絶対に許さないってことか。

 俺も同じ考えだから良く分かるわぁ。

 それはそうと……。


「言っとくけど、お前も十分可愛いからな? 流石に詩織には僅かに劣るけど……物凄い美少女だと思うぞ。化粧とか百パーお前の方が上手いだろうし」

「っ!?」


 実際、柚月に匹敵する美少女なんか詩織以外見たいこと無い。

 元々の端正な顔はもちろんのこと、化粧然り髪然り……身嗜みに気を遣っているコイツに敵う奴が早々現れるわけがない。

 

 何て考えていると……ドスッと重い刺突が俺の横腹に直撃。

 俺は即座に悶えるに至った。


「い、いでぇぇぇ……何してくれてんのマジで!?」

「そこはお世辞でも1番可愛いって言うところよ。これは、私が求める言葉を言えなかったアンタへの罰」

「そ、それにしては重すぎませんかね……?」

「妥当よ」

「り、理不尽な……」


 痛みに悶える俺はそう言いつつ、体操着をめくって痣とか出来てないかな……何て確認するのだった。





「…………不意打ちはズルいわよ……」

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