第5話 夏の体育の授業は盛り上がる

「———ふぁぁ……ねみぃ……」


 俺はガラガラの教室で1人欠伸をする。

 普段ならギリギリか、もしくは海人と少し余裕のある時間で登校するのだが……今日は残念なことに日直+昨日のSHRで担任が色々とホワイトボードに書きまくったせいで、こうして早く来る羽目になったわけだ。


 日直って何でこんな面倒なんだろうね。

 てか俺の日に限って余計なこと書くなよ楓ちゃんがよぉ……。


 因みに楓ちゃんとは我がクラスの担任である、何て誰に説明しているのかも分からぬことを考えつつ頬杖を付きながら心底下らない考えをぼんやりと巡らせていると。


「どったの琢磨〜?」

「朝っぱらから湿気た面してんなお前」


 中学からの同級生である山口悠真やまぐちゆうま朝倉慎吾あさくらしんごが話し掛けてくる。


 コイツらは俗に言う悪友みたいなもので、中学ではこの3人で良く馬鹿なことをしては海人に呆れられていた。

 偶に海人も混じってたけど……基本的に馬鹿なことをして遊んでいたのはこの3人だ。


「や、暇だなーって」

「お前普段おせーもんな」

「朝練ある俺からしたらお前が羨ましいわ」


 綺麗なセンターパートの悠真が前の席に座り、体育会系の短髪ツーブロックの慎吾は隣の席の机に腰掛けつつ、何処か同情の目を向けてくる。珍しい。


「……どったのお前ら……? 何でそんな同情を……普段なら『ざまぁーっ!』とか言ってくるくせに……」

「おいおいお前、今日の1限が何か忘れちまったんか?」


 慎吾がワクワクを抑えきれないという風に前のめりになって言ってくる。お前机ひっくり返るぞ。

 しかし前に座る悠真も心做しか顔が明るいしテンションが高いので、本当に何かあるのかもしれない。


 今日の1限……?

 そんなコイツらが喜ぶことなんかあったっけ…………はっ!!


 俺は頬杖を付いたままぼーっと前に貼られた時間割を眺めて———馬鹿共がワクワクする理由に気付いてしまった。

 同時に俺のテンションも冷め冷めからレンチンしたかの如く熱々になる。

 

 しかしここで騒いではコイツらと同類と見なされてしまう。

 ここは2人と差を生み出すべく、俺はお前らとは1段上なんだぞってところを見せ付けるように冷静に机に両肘を付いて手の甲に顎を乗せると、2人にゆっくり視線を巡らせたのち告げる。

 


「お前らまさか———体育のことか……?」

「「っ!!」」



 悠真と慎吾が正解とばかりにニンマリと下品なことを考えているような男子にしか見せない笑みを浮かべる。分かりやすっ。


 ここでなぜ2人がこれほどテンションを上げるのか、一応説明しておこう。

 

 今の時期は6月中旬をちょっと過ぎた頃。

 この頃は梅雨が開けているか開けていないかの瀬戸際で、非常に蒸し暑い。

 熱いと自然と着る服の布面積が少なくなり、生地も薄くなる。


 ここまで言えばお分かりいただけただろう。

 そう、コイツらは———




「———女子の体操服姿……っ!!」

「「ザッツライトっ!!」



 

 単純に女子の体操服姿が見たいのである。


 何とも馬鹿っぽくて男子高校生っぽい考え方だ。

 1ランク上の俺からすれば幼稚極まりない考え方———



「今日は女子と合同のバレーだぜ?」

「ダニィ!?」


 

 思わず某野菜人の王子の迷言が出てきてしまうが、それほどまでに俺の冷静な仮面をぶち破るには十分な情報であり……俺は2人に恐る恐る尋ねる。


「お、おい……その話ってガチ?」

「ガチ」

「1〜3組の奴らは昨日合同バレーだったってよ」


 真剣な表情でそう断言する証拠まで持ち出してくる悠真と慎吾。

 これにはテンションを上げないわけにはいかない。


 何せウチのクラス———2年6組は詩織と柚月を筆頭に、顔面偏差値の高い美少女揃いのクラスであり、数も男子より若干多いという最高の特典付き。

 その凄まじさと言ったら……このクラスの男子というだけで他クラスの男子に羨ましがられるほどだ。 気分が良いよな、上に立ってみたいで。

 

「そうと分かればこうしちゃあ要られねぇよ! 体操服に香水でも……ってお前らテンション低いな!? もっと上げたらどうだ!?」

「いきなりテンション高くなったな!? まぁいっか。そんなことより、俺は合法的に詩織ちゃんの大きなお胸を見るために敵チームになるんだ……!!」

「「あっ、ズルいぞ悠真テメェ!!」」


 何て俺達がお下劣なお話で大盛り上がりしていると。






「———へぇ……随分面白い話をしてるじゃない。私も混ぜてくれない?」






 言葉とは裏腹に、ちっとも面白そうじゃないどころか絶対零度と言っても過言ではないくらいに冷え冷えとした声が俺達の時間を止める。

 同時に俺達だけの特殊能力である即座に目だけで会話をスタート。


『おい、誰が答える?』

『ここは琢磨一択だろ。コイツの口八丁で俺達は何度救われてると思ってる?』

『馬鹿言ってんじゃねぇぞこら。アイツは俺でも無理だわ。ここは悠真……』

『『頼んだ琢磨』』

「お前ら後で絶対憶えとけよ? 2人纏めて絞め上げてやるからな?」


 頼んだと言わんばかりに目を逸らしてだんまりを決め込み始める悠真と慎吾に怨嗟の声を漏らしつつ、出来るだけ笑顔で声の主———柚月の方を向く。


「おはようさん、柚月。今日は珍しく良い天気だよな。これなら気持ち良く昼寝も出来るって———」

「今のアンタらマジでキモいから」

「「「ぐはっ———ッッ!?」」」


 爽やかな笑みとはなんぞとばかりに心底軽蔑した表情で侮蔑の目を向ける金髪ギャルの会心の一撃に、俺達は敢えなく撃沈するのだった。


 


 




「———さっきは大声で話してたのが悪かったな、うん」

「だな。小声ならバレてなかった」

「朝だからって油断してたぜ……バスケでも油断は大敵って言われたのによ」

「えっと……今回は何をしたのか聞いても良いかな……?」

 

 体操服に着替えた俺達が朝の反省会を繰り広げていると、一部始終を知らない海人が頬をぽりぽりかきながら問い掛けてきた。

 体操服という全く同じ服のはずなのに、俺達とは一線を画すイケメン具合には感嘆の一言だ。


 俺もこんなイケメンに生まれたかった。

 まぁ今でも十分イケメンだけど……ちょっと海人はレベチなんよな。

 しかもこれで性格もいいとか本当にやめて欲しい。

 お前は大人しく詩織と一生くっついてろ。(厄介オタク)


 何て思いつつ、一部始終を説明する。


「や、俺達が『女子の体操服って最高だよな!』って話てたら、柚月が来てクリティカルダメージの防御貫通口撃を食らったって話」

「想像まで出来るのが恥ずかしいよ……」

「おいおい海人、酷い言い草じゃねぇか。俺達は健全な話をしてただけだぜ?」

「慎吾の言う通り。俺達は男子高校生として普通の会話で盛り上がってただけよ」


 両肩を悠真と慎吾にガシッと掴まれて詰められる海人が困った様子で目の前に仁王立ちで佇む俺に目を向ける。

 そこで俺は言ってやった。



「———俺達は断じて悪いことなど何1つしていないっ!!」



 悠真と慎吾が良く言ったとばかりに笑みを零し、それに同意するように俺も笑顔を浮かべようとして———


「何馬鹿なことを言ってるの? 口にバレーボール詰め込むわよ?」

「冗談ですやーん、ちゃんと悪いと思ってるに決まってますやーん。ついでにバレーボールを口に詰め込むのも冗談だよな??」


 いつの間にか後ろに居たらしい柚月の声に振り返ると同時に渾身の三下風笑みを張り付けた。

 しかし、その仮面も直ぐに剥がれる。




 ———目の前に体操着姿の柚月と詩織が居たからである。




 半袖の体操着によって二の腕が惜しみなく晒され、柚月のそこそこ大きい双丘が体操服を押し上げ、詩織のどでかい双丘が窮屈そうに体操服を圧迫しており、短パンから伸びる2人のスラッと健康的で蠱惑的な素脚は大変魅力的だった。

 また、普段は髪を結ばない柚月も今日はポニーテールにしており、僅かに湿ったうなじが———これ以上はアウトだな、うん。


「な、何よ……?」


 途中で思考をシャットアウトした俺を戸惑いつつも不審げに見つめる柚月。

 俺はそんな金髪ポニーテールギャルへと、サムズアップと共に告げた。




「———最高です」

「バレーボールが食べたいようね。良いわ、ねじ込んであげる」




 結局その言葉を境に、授業が始まる直前まで仁義なき鬼ごっこが繰り広げられたのだった。


 そのせいで海人と詩織の会話が聞こえなかったじゃん、どうしてくれんの?


「うっさい」

「ハイッ」


 こっっわ。


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