第23話 勉強会 その1

 勉強会の日がやってきた。大輔、葵、梨香、そして結衣の4人がリビングに集まり、テーブルを囲んで座る。初めてみんなで勉強会を開くことに少し緊張感が漂っていたが、葵がリーダーシップを取って、スムーズに進めようとしていた。




「さぁ、みんな、そろそろ勉強始めようか!」


 葵の掛け声で、早速席決めが始まった。けれど、座る場所で少しもめる場面があった。


「はいはいは〜い。私は、大輔先輩の隣が良いです〜!」


 梨香が元気に手を挙げながら言う。彼女の笑顔にはどこか独占したいという気持ちが見え隠れしていた。




「梨香、ちょっと待って。」


 結衣は一瞬困ったように眉を寄せたが、すぐに冷静な口調で言葉を続けた。「私が隣でわからないところを教え合った方が効率いいんじゃない?葵ちゃんと梨香だって同じ学年なんだから、その方が絶対いいと思うよ。」




 一瞬の沈黙が流れ、梨香は少し戸惑いながらも「でも…」と視線を大輔に向けた。大輔はそのやり取りを見て、どうしたものかと少し困ったように微笑んでいた。


(早速きた〜。場所で揉めるやつ!!おにいどうやって対応するんだろ)


「確かにそうだね。」大輔が冷静に答え、全員に目を向けた。「まずは、各自で勉強を進めて、わからないところは僕と結衣さんで教えるってことにしよう。だから、僕の隣は結衣さんでお願いします。」




(すげ〜。おにいは、まさに名奉行。説得力あるんだよね)葵は心の中で感心しながら、兄の冷静さに感嘆する。




「わ・か・り・ま・し・た!」


 梨香は頬を膨らませて、拗ねたように返事をしたが、その表情には少しの照れが混じっていた。


(先輩が私のこともちゃんと気にしてくれてる…。ちょっと拗ねたけど、嬉しいな…)




 結衣は隣に座ることが決まり、少しほっとしたように笑顔を浮かべる。


(大輔君ってこういう時、いつも説明が上手だよね。それに…私を選んでくれてる。何でこんなに嬉しいんだろう…理由はわからないけど、ふふ、やっぱり嬉しいな。)




「それじゃあ、勉強を始めようか。今日は集中してやろう!」


 大輔が勉強をスタートさせると、全員がテキストを広げ、ペンを手に取った。静かにテーブルに向かう中、梨香は大輔の顔をちらりと見つめ、結衣は隣で感じる安心感にほっと息をつく。




「結衣さん。この数学の問題さ。この座標の問題でYがマイナスになるのがよくわからないけどわかる?」


「あぁ〜。ここは、こうやって考えると良いよ。」


 結衣が大輔に近づき、教える時にふわっととても良い香りがして、なぜか大輔が恥ずかしくなり、顔を赤くしてしまった。


「あ・ありがとう」


「また、わからないことがあったら聞いてね」


 そのやり取りを見て、梨香モヤモヤする。


「大輔せんぱ〜い。この物理の問題がわからないので、教えてもらっても良いですか?」




「ん?了解。どれどれ?」


 大輔は梨香の横に行き、彼女のテキストを覗き込みながらわからないところを確認し始めた。問題を指差しながら説明していると、ふと大輔の手が梨香の手に触れてしまう。




「あっ、梨香さん。ごめん、手が当たっちゃった…。」


「えっ?別に…手を握ってもいいんですよ…」


 梨香の顔は一気に真っ赤になり、声はどんどん小さくなる。




「え?何か言った?」


 大輔は少し困惑しながらも、彼女の反応に気を使って謝ろうとする。




「ごめん。怒ってるよね?」


「べ、別に怒ってないです…。その、全然…。」


 梨香は顔を隠すように俯き、声がさらにかすれる。




(あ〜、何これ…!おにいと梨香ちゃん、激甘なんだけど!はあはあ。これ、リアルの少女漫画みたいで楽しすぎる!)




 結衣さんがこっちをちらっと睨んでいるような気がするけど…気のせいだよね?それにしても、葵の様子もちょっと変だし、何か変なものでも食べたのか?

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