第24話
大輔は、梨香に問題の解き方を説明し終わると、ちらっと彼女に目を向けた。梨香は微笑んでいたが、少し頬が赤らんでいる。
(何か、すごく嬉しそうだな…でも、何でだろう?)
不思議に思いながらも、自分の席に戻ろうとすると、葵の表情が何か変だ。
「葵、何か変なものでも食べたのか?」
「べ、別に食べてないよ…勉強に集中しなさい、全く!」
葵の声はどこかイライラしていて、視線はどこか鋭い。大輔は困惑しつつも、再び席に戻り、ペンを手に取った。
(何で怒ってるんだ…?葵のやつ、なんか変だな。でもまあ、勉強に集中しよう。)
その時、隣にいた結衣がそっと肩を寄せてきた。彼女の顔がかなり近く、大輔は突然の距離感に驚く。結衣からはふわりと甘い香りが漂い、大輔は思わず顔を赤くしてしまった。
「ねえ、大輔君、この数学の座標を求める問題、教えてもらってもいい?」
「う、うん。この問題は、こうやって考えるとわかりやすいかも…」
大輔は緊張しながらも何とか説明を続けるが、結衣が微笑みながら「ありがとう!」と言うたびに、その笑顔と距離感に圧倒される。
「あぁ〜、なるほど。大輔君、説明がすごくわかりやすい!」
(やばい…近すぎるし、何かすごく良い匂いがする…)
喜んでくれていることはわかるが、大輔は恥ずかしさで頭がぼんやりしてしまい、何を言われたか半分も覚えていなかった。
一方、そのやり取りを見つめていた梨香は、明らかに不満げな表情をしていた。彼女の視線は冷たく、まるで何かに苛立っているようだった。それは大輔にも伝わり、彼は思わず困惑した表情を浮かべた。
(え、梨香さんの視線が…冷たい?何で?僕、何か悪いことしたかな?)
梨香の表情をちらりと確認しながらも、大輔はその視線の意味を理解できず、内心で戸惑っていた。
その一方で、葵はそんな状況をまるで舞台の観客のように楽しんでいた。彼女は心の中で興奮しながら、目の前の”リアルな少女漫画”のような展開を堪能していた。
(はあはあはあ〜、これは本当に見応えがあるなぁ!おにいと浅見先輩のやり取りも素敵だし、梨香ちゃんの反応も…まさに少女漫画そのもの!これはもう、見逃せない!!)
葵は兄のやり取りに興奮し、目を輝かせながら見守っていたが、大輔はその視線に気づかず、不思議な感覚を覚えていた。
(葵、なんか変だな…。でもまあ、気にしないでおこう)
ふと気づくと、結衣がちらりとこちらを見ているような気がした。しかし、その視線に違和感があった。微笑んでいるはずなのに、どこか緊張感が漂っているように感じた。
(え、結衣さん、今…僕のことを睨んだ?いや、気のせいかもしれない…)
大輔は、梨香の冷たい視線と結衣の微妙な態度を感じながらも、何とか気持ちを切り替えようとした。しかし、その不安がなかなか消えず、集中が途切れがちだった。
結衣がふと顔を上げ、大輔に話しかけた。
「大輔君、次のテスト、どれくらいの点数を目指してる?」
その質問に少し驚きながらも、大輔は一瞬考え込んでから答えた。
「うーん…転校したばかりで、正直自信ないんだけど…平均85点くらいを目指してるよ。まだどれくらい取れるかわからないけどさ」
「85点か〜、いい目標だね。」結衣が笑顔で頷きながら、「ちなみに私、1年生最後のテストで平均90点取ったんだよ。学年で3位だったけど、1位にはなれなかった。」
「90点で3位って…1位の人、何点取ったんだよ…すごいな。」
「私も思ったよ。1位の子は、ほとんど満点取るんだって。すごいよね。」
「いやいや、90点も十分すごいよ。僕なんてまだどこまでできるか不安でさ…でも、頑張ってみるよ。」
勉強会は順調に進んでいった。お互いに質問をし合い、教え合いながら、和やかな雰囲気で進められた。葵は兄の姿を見て、心の中で笑顔が絶えなかった。(おにい、これならボッチ卒業も近いんじゃない?)と内心で思いながらも、自分の勉強にも集中していた。
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