第16話 梨香さんの自宅へ

 日曜日の朝、快晴の空が広がる中、大輔は少し緊張しながら玄関で靴を履いていた。今日は葵と一緒に梨香さんの家へ向かう日だ。先日、弟の海斗君を助けたことへのお礼を言われることになっているが、こうした状況にはあまり慣れていない。




「おにい、準備できた?」


 葵がリビングから声をかける。大輔は鏡に映る自分を見て、先日葵と買った淡いブルーのシャツを軽く整えた。普段は無難な黒いシャツしか着ない彼にとって、この服は少し冒険だったが、葵の助けで何とか着こなせるようになっていた。




「うん、まぁな。でも…この服、変じゃないかな?」


「もう、おにい。大丈夫だって!ちゃんと着こなしてるし、似合ってるよ!それに、いつもの黒シャツよりずっといい感じだよ。」


 葵は少し心配そうに大輔を見て、軽く肩を叩いた。


「ただ…おにい、もっと自信持ってさ。今日くらい堂々としてよね!リラックス、リラックス。」




 おにいって、普段はボッチだけど、話し出せば意外と普通なんだよね。だから、最初のきっかけだけ私がしっかりアシストすれば、後はきっと大丈夫!




「わかってるけど、なんかさ…こんなに緊張するのって、久しぶりで…。ボッチにこんな大役は無理だよ…」


 大輔は軽く苦笑いを浮かべながら言った。自分のコミュニケーション能力の低さを痛感していた。


「まぁ、梨香ちゃん家のことだから、そんなに気張らなくてもいいって。あとは、私がフォローしてあげるから!」


 葵が明るくそう言って、玄関を開ける。兄妹は外へ出ると、家から出発して梨香さんの家へと向かった。




 梨香さんの家に到着すると、玄関には明るい笑顔の梨香さんが待っていた。「ようこそ、大輔先輩、葵ちゃん!」と元気に挨拶し、大輔と葵を家の中へ招き入れた。梨香さんの家は広々としていて、居心地の良さそうなリビングに案内されると、そこには梨香さんの両親と海斗君が待っていた。


 すると、海斗君がすぐに大輔のところへ駆け寄り、彼に抱きついた。


「お兄ちゃん、ありがとう!僕、すっごく怖かったけど、助けてくれて本当にありがとう!」


「いや、本当に偶然その場にいただけだから気にしなくていいんだよ。でも無事で本当によかったよ」




 梨香さんの両親も続けて大輔に感謝の言葉を述べた。「本当に息子を助けていただいて、ありがとうございました。海斗が無事で、本当に感謝しています」と、深々と頭を下げるお母さん。そして、お父さんも「君がいてくれてよかった。お礼をいくら言っても足りないよ」と真剣な表情で語った。大輔はその真心のこもった感謝に、胸がじんわりと温かくなり、自分の行動がこれほど感謝されることに少し照れながらも、心から嬉しかった。




 その一方で、梨香さんは少しむすっとした表情で、大輔と海斗君のやり取りを見つめていた。弟が注目を集めるのは当然のことだと頭ではわかっているものの、心のどこかで「私ももう少し大輔先輩と話したいな…」という気持ちが膨らんでいた。でも、今日は海斗が主役。だから仕方ないと自分に言い聞かせていた。




 そんな梨香の様子に気づいた葵が、ちらっと彼女の顔を覗き込み、にやりと笑ってささやいた。


「梨香ちゃん、なんかむすっとしてない?」


「えっ、別に…!」


 と、梨香は慌てて否定したが、頬が少し赤くなっているのを隠せなかった。




 梨香は内心でぼそっとつぶやいた。「いいなぁ、海斗は…私だって、もっと大輔先輩と…」誰にも聞こえないように、小さな声でぼやく。だが、その瞬間、葵が何かを聞き逃さなかったようにニヤニヤしていた。




 その後、リビングでお茶をいただきながら少し会話を交わしていたが、海斗君が突然「一緒に遊んで!」と大輔を誘い出す。海斗君の期待に応える形で、大輔は彼と一緒に遊ぶことになった。積み木やカードゲームで遊ぶ中、海斗君はますます大輔に懐いていく。




「お兄ちゃん、また遊びに来てね!」


「もちろんだよ、海斗君」


 そのやり取りを見つめていた梨香は少し拗ねた表情でまたぼそっとつぶやいた。「私も、もうちょっと…」




 梨香ちゃんは、完全に好きになりかけてるな。浅見先輩のこともあるし、まあ、ここは妹としてサポートしてあげますか。しかし、うちのおにいはボッチを拗らせてるにも関わらず、美少女2人から好意を持たれるって、ほんと化け物だね。イケメンでもこんな状況に持っていくのは難しいのに、ボッチオブザボッチが成し遂げるなんて…悔しいから、ちょっと嫌味言ってやろうかな。




「おにい、海斗君とこんな風に話せるなら、同級生相手にボッチ脱却も簡単じゃないの?」


「それはまた別の話だよ」


 と軽く返したが、どこか海斗君と遊ぶことでリラックスしていた自分に気づき、少し気恥ずかしく感じていた。


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