第17話 告白
大輔は、屋上に続く階段の下にある目立たない場所でお弁当を広げていた。ここは人目が少なく、クラスメイトたちが賑やかに過ごす教室からも少し離れていて、大輔にとっては静かに一息つける場所だ。屋上は自由に使えないため、この場所が彼の隠れ家的なランチスポットになっていた。
「ゴールデンウィークか…。休みが来ても特にやることはないし、また本でも読もうかな。」
彼はぼんやりとそんなことを考えながら、お弁当のふたを開けた。すると、遠くから声が聞こえてきた。それは、彼がよく知っているクラスメイトの浅見結衣の声だった。だが、もう一つの声は少し低く、上靴の色から判断するとどうやら3年生の男子のようだ。大輔は、好奇心からそっと声の方に耳を傾けた。
「浅見さん、今度俺の高校生最後の試合を見に来てほしいんだ。できれば、俺の恋人になって俺だけを応援してくれないか?」
「ごめんなさい。私、そういう気持ちにはなれないんです。」
「でも、浅見さん…俺、真剣なんだよ!もう少し考えてくれないか?俺の気持ち、ちゃんと聞いてくれよ!」
その声には次第に焦りが混じり始め、少し強引な態度を見せ始めた。大輔は緊張感を感じ取り、そっと階段から身を乗り出して様子を伺った。先輩が結衣に少し近づき、手を掴もうとしているところだった。
「それ以上はやめてください。」
大輔は階段を急いで降り、2人の間に割り込んだ。少し震えながらも、しっかりと先輩に向き合った。
「何だ、お前は?邪魔するなよ!」
「先輩、好きな人に自分の気持ちを伝えるのは大事なことだと思います。でも、彼女はすでに断っています。無理に押し通しても、好きな人の意見を無視するような関係なんてうまくいくわけがありません。相手の意見が気に入らなければ、怒鳴って自分の意見を押し通すなんて、仮にお付き合いしても上手くいくはずがありません。むしろ、そうすればするほど、先輩は彼女にとって遠い存在になってしまうんです。今なら引き返せます。引いてもらえませんか。」
大輔の言葉に先輩は一瞬、口をつぐんだ。大輔の真っ直ぐな言葉が先輩に響いたのだろう。怒りが少し和らぎ、彼は静かに後退し始めた。
「……わかった。もういいよ。」
先輩は最後に一度彼女を見つめ、悔しそうに去っていった。大輔はその後ろ姿を見送り、ふっと安堵の息をついた。
結衣は、まだ少し動揺した表情で大輔を見つめていた。
「大輔君、本当にありがとう…すごく怖かったの。」
彼女の声は震えていて、少し涙ぐんでいるようにも見えた。大輔は、彼女がどれほど不安だったかを理解し、静かに彼女の肩に手を置いた。
「結衣さん。もう大丈夫だよ。多分、あの先輩はこれから君に無理強いすることはないと思う。」
結衣はしばらく沈黙していたが、やがて少しずつ落ち着きを取り戻し、ふっと微笑んだ。
「本当にありがとう、大輔君。でも…こんなところで話してると、誰かに聞かれるかもしれないね。」
結衣はふと周りを見渡し、少し思案顔になった。
「ねえ、大輔君。この後の話は、放課後にいつもの八坂稲荷神社で話をしない?ここだと誰かに見られちゃいそうだし、静かな場所の方がいいかなって。」
「わかった。じゃあ、放課後に神社で待ってるよ。」
「ありがとう。それじゃ、後でね。」
結衣はもう一度微笑み、去っていった。大輔はその後ろ姿を見送りながら、胸の中に小さな誇りと不安が混じった感覚を抱きつつ、再び屋上への階段を登っていった。
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