第56話

早乙女さんと飲んだ翌日、朝の8時にセットしたアラームの音に起こされる。


 「頭痛いな。完全に二日酔いだ」


 鈍器で叩かれているかのような頭痛に、飲みすぎてしまった昨夜のことを反省する。


 浴びるようにお酒を飲み、慣れない冷酒にまで手を出してしまったが、幸いにも記憶はあった。


 失態はしていないはずだと思い返せば、早乙女さんの笑った顔や、綺麗な横顔、いつもに増してたくさん会話した時間が蘇り、何故か火照る顔。


 「やばいな…。私今日、平常心でいられるか心配になってきた」


 枕を手繰り寄せ顔を埋め、久しぶりの片思いに戸惑ってしまう。


 約束は10時で、車で1時間の距離にある柴犬カフェに、ドライブをしながら行く段取りになっているため、出発前までにはなんとか二日酔いを覚ましておきたい。


 帰ってきた時間からして、お酒は抜けているはずだが、もしも途中で吐いてしまうなんてことがあれば、絶望である。


 とにかく朝ごはんにしようと思い、インスタントのシジミのお味噌汁を作り、猫舌のため冷まして飲んだ。


 「スカート、ワンピース…持ってないってやばいな、私」


 二人で出かけるのは今日が初めてでは無いが、自分の気持ちに気がついてしまった以上、二人きりということを、以上なまでにも意識してしまう。


 いつものパンツスタイルではなく、女性らしい格好をしていこうとクローゼットを漁るが、持っている服はどれもシンプルなカジュアルスタイルのものばかり。


 どうしようかと悩んでいると、ふと目に止まる、花柄のワンピース。


 「…桃」


 それは桃が、いつか私に好きな人が出来た時のためにとプレゼントしてくれたものだった。


 『お姉ちゃん、好きな人が出来たら、このワンピースを着てデートに行って。可愛い服を着ると、それだけで自分に自信が持てるから』


 ワンピースは似合わないと思っていた私に、桃は絶対に似合うと言ってくれた。


 「まさか、本当に着る日が来るとは思わなかったよ。桃、流石だね。ありがとう」


 今度会った時、ちゃんと謝ろう。そして、今日のことを、話そう。


 白地に散らばる花柄のワンピースに袖を通せば、心なしか、いつもと違う自分に心が躍った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る