第54話

芯の通った強い人だなんて、初めて言われた。それも、おそらく好意を抱いているであろう相手から。


 嘘偽りのない言葉だと、一点の曇りもない目が物語っている。


 「俺、ずっと味方は根神さんだけだったんだ。売れれば売れるほど、同業者からは妬まれて、友達だった人も、俺のことを作家の早乙女瑠威としか見てくれなくなった」


 「早乙女さん…」


 「大将、熱燗おかわり」


 「はいよ」


 「それでも書き続けてこれたのは、担当が根神さんだったから。俺の才能を誰よりも信じてくれて、仕事関係なくそばにいてくれた。一緒にご飯食べたりゲームしたりしてさ。友達みたいで、兄のような存在。親なんていないも同然だし、親戚ももちろん頼れる人はいない。野久保さん達が今は俺の親みたいなもんだけどさ。俺のために何かをしてくれる人っていうのが、本当に貴重なわけで。だから、あの時鳴無さんがストーカーに立ち向かってくれたこと、本当に嬉しかった」


 出された熱燗をお猪口に注ぎ、飲み干す横顔。


 早乙女さんはずっと孤独な中で戦ってきた。そのことが、鮮明に語られた。


 寂しかったのかもしれないと、胸がギュッとなる。私は乗り越えることのできなかった境界線を、早乙女さんは苦しみながらも乗り越えた。やはり、凄い人なんだと思い知らされる。同時に、尊敬の念も強くなる。


 あの日から私のことは信頼できる人になり、関わる中で芯の強さも見えたんだと、そう口にされ、恥ずかしさが込み上げる中、そっとその綺麗な横顔に目を向けた。


 口角があがり、ほんのり赤くなった頬。


 「普段こんなに喋らないんだけど、俺。鳴無さんにつられて酔ったのかも」


 笑いながらこちらを向くその目と、私の目がゆっくりと合う。


 あゝ、私はこの人のことが好きなんだ。


 そう確信した瞬間だった。

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