第53話

「早乙女さん、もう飲まないんですか?かかってこーい」


 「酒に飲まれる人間にはなりたくないと強く思うよ、今」


 食べて飲むこと1時間。


 目の前に出された寿司下駄は、米粒一つ残さず綺麗にその木目を見せている。


 私は普段飲まない冷酒に手を出し、見事に酔い潰れていた。


 見慣れた光景なのか、カウンター越しに大将が微笑みお冷を出してくれる。


 「モヤモヤするんですよー。言いたいこと言って嫌な思いさせちゃったからー。私は自分のやりたいことも投げ出した中途半端な人間なのにー」


「語尾伸ばすのやめて、聞き取りづらい」


 涙交じりに訴えるのは、先ほどの桃とのやり取り。別れた方がいいなんて、第三者に言われていい気はしない。そんなことも配慮できてなかったのかと、自分が嫌になる。


 そもそも私は、夢を放り投げた中途半端な人間で、いい見本にすら慣れていないのにと。


 めんどくさそうな顔をしながらも、ちゃんと聞いてくれている早乙女さんは、本当に優しい人だと思う。


 「俺さ、鳴無さんは中途半端な人だとは思わないよ。むしろ、芯の通った強い人だと思う」


 「…え?」

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