第52話

5分ほど歩いて着いた居酒屋は、間新しい暖簾のかかった小さな店だった。カウンターのある落ち着いた店内は、他の客で賑わっており、空いてる席がないからと、カウンターに通される。


 「大将、いつもの」


 「はいよ」


 最近出来たばかりだというのに、既に常連のような会話。


 出てきたのは熱燗と刺身の盛り合わせ、そしてお通しのつぶ貝。


 「私、ビールで」


 流石に熱燗はまだ好んで飲むことができない。隣でジトーっとした目の早乙女さんが、私の分のお猪口を差し出し引っ込めていた。


 「なんか、ごめんなさい」


 「野久保さん誘えばよかった」


 誘ってきたのはそっちでしょうとツッコミを入れたくなった。


 「瑠威君、彼女?」


 「…違う」


 男女で来れば、大抵この質問を投げかけられる。定番なのであろう。


 早乙女さんは少しの間を開け、小さな声で否定した。

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