第51話

「料理するなんて意外です」


 座り込んだままヘラヘラと笑う私を、訝しげな顔で見る早乙女さん。


 「本当にたまにしかしないし、作っても卵かけご飯とかだけど。去年買ったフライパン、今日初めて使った」


 「なんですかそれ。レア中のレアな日だったってことですね」


 「…酔ってる?」


 「早乙女さん?」


 終始笑ってしまうのは、お酒がまだ抜けていないからだろう。さっきの桃のこともあってか、笑顔を貼り付けていたのもある。


 心配しているかのような声で頭上から話しかけられて、そのまま上を向くと数センチ先に綺麗な顔。


 「いつもより顔赤いじゃん」


 「…おっと」


 表情一つ変えないイケメンに、激しく動揺した。


 「まだ飲めるならさ、俺も今から晩酌しようと思ってて、近くにできた居酒屋にでも行かない?」


 「もちろんです」


 そして急遽決まった早乙女さんとの外出。


 コンビニで買ったお酒とおつまみはまた後日にするからと、家の中に入れにいった姿を見送り、出てくるまでの数分の間で、急いでリップを塗り直す。


 「何してんだ私」


 たまにすっぴん姿の時に遭遇することもあるのに、なんで気にしているのかと、自分で自分にツッコミを入れ、新しく買ったオレンジのリップを鞄に戻すと出てくる早乙女さん。


 「じゃあ行こうか」


 横を歩く早乙女さんも、心なしか髪型がセットされている。


 もし、身だしなみを気にしてセットして来てくれたのだろうかと考えれば、心がむず痒くなったのであった。

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