第50話

時間は夜の9時を指そうとしている。


 冬になったこともあってか、日が落ちるのが早く、夜中だと錯覚してしまうほどに静かな外。


 「雪、戸締りしっかりしろよ。暫くこっち居るから、また連絡する」


 「ありがとう。気をつけて帰って」


 相変わらず口を開かない桃だが、チラッとこちらを見て目は合った。


 反発すると言うことは、自分でも多少は分かっているのだろう。しかし、別れた方がいいと言ってしまったことは反省しなければいけないなと落ち込む。


 遠くなる車のライトを暫く見送り、小さくため息を吐き項垂れた。


 「…びっくりした。鳴無さんか」


 街灯のセンサーが反応した先を目で追えば、部屋着姿の早乙女さんがコンビニの袋を下げて立っていた。


 「あ、早乙女さん。へへ」


 「へへって何、気持ち悪いな」


 息を吐くように出た、語尾の"へへ"。


 特に意味はないのだが、気持ち悪がられてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る