第49話

その言葉に、私も彰も時が止まったかのようにフリーズした。


 「だって、最後には私のところに戻ってくるって言ってたし、若気の至りでしょ?今我慢すればもしかすると結婚までいけるかもしれないからさ」


 どうしてそこまで、そんな男との結婚を夢見るのか。姉としては、何としてでも離れさせたい。


 「私は別れた方がいいと思う。桃、自分のことを大事にしてよ。我慢してまで続けないといけない関係って、幸せだとは言えないでしょ?」


 私の言葉に、珍しくムッとした表情になる桃。


 「お姉ちゃんには分からないよ。恋愛なんてほぼ皆無に等しいし、やりたいことすら諦めて。お姉ちゃんこそ自分を大事に出来てないじゃん!私はかんちゃんとの未来が欲しいの!ただ愚痴を聞いて欲しかっただけなのに」


 「桃、言い過ぎだ」


 「…帰る」


 「私今日は自分の部屋に帰るから、彰、ごめんだけど送っていって欲しい」


 彰は困ったように私と桃を見合わせ、静かに車を走らせた。


 無言の車内で気まずい空気が流れる中、"やりたいことも諦めて"というフレーズが、私の心を大きく揺さぶっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る