ココアの思い出

第34話

久しぶりに思い出す苦い思い出に、頬をたたき気持ちを入れ替える。


 半ば強引に取り付けられたデートではあったけれど、素直に楽しかった。


 いつもと違う早乙女さんの一面を見ることが出来たし、距離も前より縮まった気もする。


 恋愛とは暫く疎遠。


 もし好きな人が出来たら、こんな感じなのだろうなと、少し気持ちもざわついた一日。


 あくまでも仕事のためのデート。


 早乙女さんとは良い隣人でいよう。


 そう自分に言い聞かせた。


 『今日はありがとう』


 動物園の中で逸れた時のために交換した連絡先。


 絵文字も句読点も、何も無いシンプルなメッセージに笑みが溢れる。


 『こちらこそ、ありがとうございました。おやすみなさい』


 自然と隣の部屋と繋がる壁に視線を向け、同じくシンプルな返事を送った。


 『今から泊まりに行かせて』


 「え」


 画面を閉じる前に見えたのは、桃からのメッセージ。


 また急なお泊まりかと頭を抱え、きっとお腹を空かせていることだろうと、キッチンへと向かったのであった。

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