第30話

動物園に着くと、日曜日ということもあり、家族連れやカップルで賑わっていた。


 混雑する園内に、ゆっくり見て回れるかなと不安になるが、隣の早乙女さんを見るとそんな不安は吹き飛んだ。


 何故ならば、


 「ねえ、俺ライオン見たい。キリンも猿も、後はペンギンも!…待って、ゾウも見ないと」


 目をキラキラさせて、入場時に渡された園内パンフレットを真剣に見ながら、まるで子どものようにはしゃいでいるのだから。


 「早乙女さん、動物園来るの、もしかして初めてですか?」


 まさかとは思い話を振れば、恥ずかしそうに頭を縦に振られてしまい、聞いてはいけなかったのではと焦ってしまった。


 しかし、早く行こうと手を引かれ、休む間も無く歩き回された。


 はしゃぐ早乙女さんは、初めて会った時の印象とは真逆で、また見つけた新しい一面に、少しだけ、嬉しくなる。


 広い園内を見事に回り切り、売店でくじ引きを引き当てた一等賞。


 もちろん引き当てたのは早乙女さんで、大きなアライグマのぬいぐるみを抱える姿は、その端正な顔立ちとのギャップを生み出していた。


 「似合いませんね、ぬいぐるみ」


 「正直すぎてびっくりだよ。嘘でも褒めて欲しいね、ぬいぐるみと俺の組み合わせが最高だってさ」


 「無理です。でも、一等賞を引き当てたことは本当に凄いです。やりましたね」


 差し出したグーサインの手は、ムスッとした早乙女さんによって払い落とされた。


 日が暮れ始めて、そろそろ帰ろうと言うと、名残惜しそうに頷く早乙女さん。


 余程楽しかったのか、何度も振り返り、足を止めていた。


 「ほら、帰りますよ」


 「意地悪」


 きっと側から見れば母親と子どもの図だろう。


 迫る電車の時間を気にしながら、帰る足がなかなか進まない早乙女さんを引っ張り帰り路を急いだのあった。

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