第29話
無事に乗りたかった電車の時間に間に合い、隣同士緑の座席に腰掛ける。
「早乙女さん、そういえば動物園の入場券、用意してくれてありがとうございます。お誘い頂いて嬉しいんですけど、執筆の参考になるようなデート、私に出来るかどうか分からないので、期待はしないでくださいね」
ルックスは完璧以上で、職業は人気小説家。
性格に難はあると思っていたけれど、関わる頻度が多くなる中で、そこまで悪い人では無いことも知った。
どちらかというと、優しい人。
分かりずらいけれど、暖かい人。
それなのに、恋愛経験がないと言うのは、本当なのだろうか。
私こそ恋愛経験は人並み以下だと思うし、根神さんが期待しているようないい経験になるような気がせず、申し訳ないと思いながらここにいる。
「そもそも、期待なんてしてない。根神さんがどうしても小説に反映できるような俺の心の変化が欲しいからって、無理やり作ったデート企画だから。単純に貰った動物園のチケットは無駄にしたらダメだなって思っただけだし、気にしないで」
優しさなのか、本心なのか。
そう言ってもらえれると、気が楽なのは確かだった。
「じゃあ、気楽に楽しませてもらいます。動物園久しぶりなので、正直言うと楽しみだったんですよね」
根神さんには申し訳ないが、デートらしいデートは意識しないでおこう。
最寄駅まではあと数十分。
横を見れば柔らかな表情で外を見る早乙女さんの顔が目に入り、また煩くなる心臓に動揺した。
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