第28話

迎えた週末、約束の時間に玄関の外で早乙女さんのことを待つが、一向に姿が現れない。


 「忘れてるとか?」


 いつもの早乙女さんのことを思い出し、忘れている可能性も十分にあるなと思い、もう少し待つことに。


 幸いにも隣の部屋のため、仮に予定がキャンセルになってもあまり困らない。


 しかし、季節は冬に近づいている。


 外で待つには寒すぎる。手に息を吹きかけ暖を取っていると、勢いよく開かれた隣の扉。


 「鳴無さん、お待たせ」


 「早乙女さん、忘れてたかと思って…」


 ゆったりとしたいつもの服装とは違い、綺麗に着飾っている早乙女さん。いつもと違う雰囲気に少し胸が煩くなった。


 「久しぶりのちゃんとした外出だから、準備に時間が掛かっちゃった。待たせてごめん」


 相変わらず表情はクールだったが、気遣う言葉が出て来たことが嬉しい。


 「大丈夫です。今日の服装もよくお似合いです。混む前に、行きましょう」


 準備に時間が掛かったと言っていた。


 どんな様子で準備していたのかと想像すると笑みが溢れてしまい、早く行こうと急かしてみれば、フッと笑った早乙女さんが嬉しそうに横に並んで歩き出す。


 相変わらず綺麗な顔をしているなと思いながら、昨日見たコメディドラマの話を振り掛け、車では無く電車に乗るために駅へと向かった。

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