ジャズを聴きながら
第23話
眠れないと思った夜は、壁越しに早乙女さんが居ると思えば安心してよく眠れた。
「 お姉ちゃん、下着泥棒警察に相談した? 」
「 しない。偶然かもしれないし、もし相談して現場検証なんてことになったら面倒臭いから 」
「 ダメだよ。危ないからちゃんとして 」
片道20分の通勤時間はいつも、出勤時間の被る桃と電話をする。
仕事って言う現実から目を背けたいと言う桃の要望がきっかけだった。
案の定昨日の下着泥棒の件を掘り起こされるが、軽く流す。
このままでは過干渉になってしまうと、桃の電話を切り、職場まで好きな音楽を聴くことにした。
業務に追われると1日は一瞬で、ふらふらになりながら買い物を済ませて家に帰る。
「 おつかれさま 」
「 早乙女さん、お疲れ様です 」
どこかへ出掛けていたのか、帰宅時間が被った。
最初の頃とは違い、挨拶を交わしてくれる早乙女さんに、晩ごはんはどうするのかと問えば、カロリーメイトと答えられたので、部屋に招待した。
「 今晩オムライスなんですけど、食べに来ますか? 」
「 …え 」
「 あ、忘れてください 」
今考えてもどうしてそうなったのか分からないが、私の言葉に一緒固まった早乙女さんが、何故かソファに座ってテレビを観ている。
「 早乙女さん、女の人苦手だと思ってました 」
出来上がったオムライスを並べ、目の前の椅子に座り直す早乙女さんに疑問をぶつける。
ストーカーをされていたら、普通ならば異性に対して少しばかりの抵抗は感じるはずだ。
特に早乙女さんは、他人と関わることを必要最低限で抑えるタイプに見えるし、どうして私と関わってくれているのかが謎だった。
「 オムライスに罪はない 」
「 なるほど。好物だったんですね 」
帰って来た言葉は、まるで子どもの様で拍子抜けする。特別な何かがあるとは期待していなかったが、ずっこけたい気分だ。
「 それに、鳴無さんはミーハーじゃないっての分かるし、お互いに最初のイメージ最悪なのから入ってるでしょ。だから、楽かな 」
「 お互いにって言うのは分かってるんですね 」
思いもよらぬ饒舌。こんなに長い言葉を紡いでくれたのは、きっと初めて。かもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます