第22話

ワイワイ楽しくご飯を食べる。


 気がつけば、21時を時計の針が指そうとしていて、名残惜しさを感じながら帰る意思を示した。


 「 そろそろ帰ります。ご馳走座でした。美味しかったです。ありがとうございます 」


「 またいつでもおいで。泊まって行っても良いのよ?怖いんじゃ無い?家に1人になるの 」


「 明日も仕事ですし、これ以上甘えてられないので 」


「 何かあったら叫ぶのよ。駆けつけるからね 」


「 ありがとうございます、本当に 」


優しいご夫婦だ。と、涙腺が緩くなる。怖く無いと言えば嘘になるが、たまたま狙われたのが私の部屋だっただけだろうと言い聞かせ、鞄から鍵を取り出す。


 すると、まだお酒を注いでいる早乙女さんが凝視して来て、口を開いた。


 「 …何かあったの? 」


 頬が赤く、酔っているのだろう。


 気にかけてくれているのか、興味本位なのかは分からないが、簡単に下着泥棒の被害にあったかもしれないと言うことを話せば、注いでいたお酒を一気に飲み干し、何故か帰る支度を始める早乙女さん。


 「 送って行く 」


「 いや、隣の部屋なので大丈夫ですよ。早乙女さん泊まるって言ってなかったですか? 」


「 昨日のこともあるから。俺だって人間。恩くらい返したい 」


 「 …じゃあ、お言葉に甘えて 」


微笑むご夫婦に見送られ、本当に数歩の距離を送ってもらう。


 「 あのさ、多分このアパートの壁そこまで厚く無いだろうから、怖くなったら壁叩いて。そしたら俺も叩いて返事する。1人じゃ無いって思えるでしょ? 」


「 早乙女さん… 」


「 じゃあ、そう言うことで。おやすみ 」


あくびをしながら自分の部屋の前に行く早乙女さんに、ふっと笑みが溢れる。


 両隣が優しい人達で良かった。


 心の底から、感謝をした夜のこと。

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