第9話
「 げ…
互いに眉間の皺を深くして対峙していると、男性の後ろから煙草を吹かすスーツ姿の男性が歩いてくる。
瑠威と呼ばれる目の前の男は、その声に反応すると明らかに嫌な顔を浮かべた。
「友達か?」
「違います」
「だよな」
「隣に越してきたので挨拶に来たのですが、ストーカー扱いされている所です」
40代手前だろうか。落ち着いた低い声で話すその男性は、私を見ると申し訳なさそうに顔を歪める。
「瑠威、挨拶はしたのか?」
「…した」
「してないでしょう?」
居心地悪そうにそっぽを向き嘘を吐く男にまた、怒りの感情が出る。
「根神さん、プロットから書き直した。見て」
「おい瑠威、締め切りに間に合うのか」
「天才だから大丈夫」
結局挨拶をすることなく、素っ気なく横を通り抜けて部屋に入って行ってしまった男。
根神と言う男性は、ふーっと煙を吐き出し携帯灰皿へと煙草をしまい込む。
「あいつ、あんなんだから苦労するだろうけど、ああ見えて良い奴だから」
ポンポンと肩を叩かれ、同じく部屋の中へと消えていく。
ドアノブに掛けた手提げ袋は、どちらが持って入ったのかは分からないが無くなっていた。
「良い奴だってみんな言うけど、ストーカー扱いされて気分は最悪なんですけど」
独り言を言い、たった数分で疲れてしまったのを感じながらスーパーへと向かうことに。
「プロットに、早乙女…ね」
聞き覚えのある名前と、業界用語。
心の中がざわっと音を立てた。
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