第10話

料理は得意ではない。


 だから、少しずつ出来るようになれば良いかと、カレーの材料を買い帰宅する。


 幸いにも徒歩10分圏内に色々と揃っていたため、買い物も楽だった。


 鍵を差し込み、まだ慣れない部屋に入れば、まだ根神さんが居るのだろう。隣の部屋から内容までは聞こえないが人の話し声が聞こえてくる。


 きっともう関わることは無いだろうと思い、テレビを付けると流れたニュースに目を奪われる。


 「人気小説”怪物の眠る海”映像化決定。インタビューに答えるのは、著者で人気小説化の…早乙女瑠威」


 そこには、ぶっきら棒に受け答えをする見覚えのある男。隣人の早乙女瑠威が写っていた。


 「聞いたことある名前だと思っていたら…」


 テレビの番組を変え、買ってきた食材を調理する。


 『才能ないね』


 思い出すのは、嫌な記憶。夢が儚く散った、苦い思い出。


 「…やめて」


 『もう辞めた方がいいよ、書くの』


 「…やめて」


 『時間の無駄だから』


 「やめてったら…」


 暫く忘れていたあの時の記憶は、隣人との出会いにより鮮明に蘇る。


 「分かってるから…私が一番」


 もう思い出したくない…、あんなに惨めだった自分のことは。

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