第18話 むつごと
今宵も、やり遂げた。
息を吐いて、
「
しっとりとした低い声が、ねぎらってくれる。甘えるように擦り寄ると、温かい手で髪を梳かれた。
くすりと笑って、
「
「ん」
唇を柔らかく吸われる。小鳥が嘴を重ね合わせるような戯れを繰り返して、どちらともなく微笑み合った。
「だいぶ大きくなったな」
珠を映す
うん、と
「
「嬉しいことを言ってくれるな」
「ふふ、本当のことだからな」
珠を包む手を
その手のひらの大きさに、彼の成長を実感させられた。
背はうんと伸びて、
夫の成長が嬉しくて、そのたくましい左腕を飾る腕飾りの竜の鱗へ、すり、と頬を寄せる。
温もりに
「ダメだ、今日はもう」
「……まだ、宵の口じゃないか」
「俺はあんたを、堪能したい」
「そうしたいのは山々なんだけどや」
不満げに寄せられた眉間に、白磁の指が添えられる。やわやわと皺を伸ばして、なだめるように口付けた。
「明日は夜明け前の出発だから。な?」
わかってくれと唇を攫われ、ようやく
ずるずると寝台へ横倒しになり、帳の外へはみ出した足をぶらぶらと揺らす。不機嫌な猫の尾のような仕草に、
「近頃、
「すまんな」
不貞腐れた顔に掛かる髪を指で払いつつ謝る。
父を亡くして一人暮らしになった母が、去年あたりから体調を崩しているのだ。
母は余命幾ばくもない、というわけではない。しかし病で気が弱ったのか、一度でいいからまた顔が見たいと
母の求めに応じていいか、最初は
あれこれと悩んだ末に
けれど、近頃のような頻繁な帰省は少し甘えすぎだ。嫁としての自覚が足りていなかったな、と
「別に、怒っているわけじゃない」
気まずげに
「俺が許したんだ。納得はしている。だがな」
「
口籠る
平素は堂々としている彼にしては珍しい。見つめて言葉を待つことしばらく。たっぷりと黙り込んでから、真一文字の唇がそっと開いた。
「……あんたが俺と過ごす時間が減ったのが、口惜しくて」
ぼそぼそと言って、
こんな
妻の驚いた顔に、
「
裸の背中に、ぽすんと
なんだかおかしくなって、笑ってしまう。
「じゃあさ、明日は一緒に山を降りてくれるか?」
肌の下が、ぴくんと震える。わかりやすい反応が可愛らしい。意識して甘えた声を出して、
「私も
「そうなのか?」
まるでお菓子を差し出された子供のようだ。
声を出して笑いたいのを堪えて、うんと
「
「付いてきてくれるのか?」
「ああ」
「お前はいいやつだよ、
満面の笑みを浮かべて、
抱き返してくれる腕の力が、いつもより強い。表情には出していないが、
「母さんや姉さんに伝書の鳥を送っておくからな。
「だといいが」
「ふふ、大丈夫さ」
だってうちの旦那様は、こんなにも格好良くて可愛い人なのだから。
自信を持って、と
そうして、暖かい腕の中で幸せそうに目を閉じた。
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