第14話 不安とくちづけ
「
もう少し墓の側にいると言った
片手に三羽の肥えた雉を下げている。
「おかえり、早かったな」
側に駆け寄ると、つい、と距離を取られた。
いつもなら自慢げに戦果を掲げて
「どうした? 気分でも悪いのか?」
跪いて
本当の子供のような仕草に戸惑う。
気まずい沈黙を挟んで、ようやく
「……
黒々として澄んだ瞳が、
普段は自信に満ちている双眸が、今は不安に揺れている。意味を掴み損ねた
「俺から、逃げたいんじゃないか」
「え?」
「
狩りの途中で見てしまったと、
「あいつの一人目の嫁の話を聞いていたよな」
「ああ、あれな。聞いたけれど。でもそれがどうして、私が
「離縁を選んだ花嫁の身の振り方を知って、どう思った」
「どうって」
なんと答えて良いのかわからず、言葉に詰まる。
するとそれをどう捉えたのか、
「帰れるって、思ったんじゃないか」
雉が
「この山や俺たちは、色々と、下界と違う。それを
「っ、そんなことない!」
「でも毎晩、閨で
血を吐くような呟きに、ぎくりと
「俺が
否定しようとした言葉が、喉の奥に消えた。
自分ですら疑っていたことだ。聡くてやさしい
伸ばしかけた手を戻して胸元を握る。否定できたらいいのに、できない。代わりになる言葉も見つからなくてもどかしい。
「
「珠が大きくなっていない今ならまだ、あんたを自由にしてやれる」
「ま、待て。離縁って、自由って、そんな」
「生活が心配か? なら
どうだと訊ねられて、
破格の条件だが、受け入れてはいけない気がする。どうしていいかわからなくて途方に暮れた。
「
必死で考えて、質問を返した。
瞳がゆらゆら揺れる。まだ幼さを残した細い顎が、小さく肯いた。
「
それは秋の夕風に紛れるような声だった。
声に触れた耳から心へ、ほのかな温もりが
これは恋で、きっと愛だ。ちゃんと自分は、彼を愛せている。
くらりと酩酊にも似た心地に任せ、
「なあ、
「
「あのな、私はな、これまで何度もお前が怖いと思っていたんだ。私を人ならざるものに作り変えてしまうやつだから、恐ろしい、とな」
でも、と
「今、それ以上に、お前が愛おしいと思えた」
腕の中の肩が、ぴくりと跳ねる。
「これからも、一緒にいていいか?」
「……俺の側に、いてくれるのか」
「もちろんさ」
恐る恐る訊ねる
夕陽に負けないほど、瞳を煌めかせて。
「私を、ちゃんとお前の嫁さんにしてくれ」
応えはすぐ、やさしい唇となって返された。
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