第11話 虹
白樺の森を抜けてすぐ。広い谷を臨む高台の広場に、ぽつんと一つの幕屋が構えられていた。
「幕屋なんて、平原以外で初めて見た」
「平原の奴らにもらったんだ。なかなか住み心地は良いぞ」
中に招き入れられ、パンと茹でた肉、それからバター茶の昼食をご馳走になる。
これも平原風だ。
「こいつの嫁は平原の人間だったんだ」
肉を齧りながら
「
「え……」
「ああ、気にするなよ。嫁さんは病でも事故でもなかったからな」
顔を曇らせかけた
死別した彼の妻は寿命だったそうだ。それも前日までぴんしゃんしていて、朝起きたら布団の中で冷たくなっていたのだとか。
理想的な大往生だったと笑い飛ばす
「
「俺が見つけてきたんだ。若い頃に下界を放浪していた時期があってな。その時に出逢って、口説き落とした」
「お前が嫁を連れて戻った時、大騒ぎになったと
黙々と食事をしていた
「お前がふらっと帰っていたら新しい嫁を連れていて、とても驚いたと」
「
当時を思い出してか、
「それでも
「もっと大騒ぎだったでんですか?」
「男の花嫁で大丈夫なのかってな。今はあいつらも子を成して平穏に暮らせてるけど、そりゃあ当時はすったもんだしたもんだ」
そう言いながら、
「だから
おずおずと
黒々とした目が、父性を滲ませていた。その暖かさが心地良くて、小さく笑みを返す。
「……
親しげな
鋭い目元をさらに鋭くし、声変わり前の声を限界まで低くして唸る。とてもわかりやすい嫉妬だ。一瞬
笑うな、と
「くそ、
「からかわれるのが新婚のさだめさ。反応が初々しくてめちゃくちゃ面白い」
茶碗のバター茶を飲み干して、
見た目に反して力が強い
「このっ、はなせっ!」
「やーなこった。そうそう、今日は泊まってくんだろ?」
「泊まらない! 帰る!」
「えー?
じたばたする
急に決定権を与えられて、
「あー、私は、泊めていただきたいかな? せっかく遠出をしてきたんだし」
すまん、と手を合わせると、しょんぼりと黒曜石の色をした目の視線が下がった。
「よーし決まりだな! めちゃくちゃもてなしてやるぜ!」
「あの、
「遠慮するなって。客なんて久しぶりだからな!」
ぱっと見は川辺の鷺のようにひょろりとしているのに、やたらと力が強い。妙なところが
「今夜はたっぷり飲んで食おう! なっ!」
「ああ! 料理なら任せてくれ、こう見えて得意なんだよ」
「そりゃあいい。おい
「うるさい!」
鬱陶しげに睨む
明るく振る舞ってはいても、人恋しいのかもしれない。
ならば今日は寂しくないよう、楽しく過ごそう。食事も腕に寄りをかけて振る舞おう。
そう心に決めて、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます