第7話 初夜の名残
身体の重さで目が覚めた。
頭の先から爪先まで妙に重くてだるい。なんとか瞼を押し上げると薄暗い寝台の天井が見えた。
頭を横へ倒す。紗の帳越しに朝の光が差し込み、寝台を白々と照らしている。油膜のような淡い光の中、乱れきった
「っっ!」
その光景を見た瞬間、初夜の記憶がよみがえる。
男、いや、それにもまだ手の届かない少年に抱かれた。男でありながら、きちんと花嫁の役割を果たしてしまった。あまつさえその少年の手管でとろけさせられて、あられもない痴態をさらしてしまった。
そして、そればかりか・・・・・・。
(一生の不覚っ・・・・・・!)
たまらなくなって
嫌な予感が背中を這うが、意を決して摘まんでみた。目の前まで持ってきたそれは、幼子の小指の爪ほどの白い珠だった。灯火の下、霞む目で見たあの珠で間違いない。
やはりあれは、夢うつつの出来事ではなかったのだ。
(あげく、
事後のことだった。
疲れ切って
あれよという間に事の最中を思い出すような甘い熱が襲われて、側にいた
思い出すだけで、肌が軽く粟立つ。あのなんともいえない感覚が、
初夜の後に子種を受けた側が珠を産むなんて、聞いたこともない。男色、中原の言葉でいうところの
一瞬考えてしまうも、
珠に近い形のもの、卵を産むのは鳥や蛇、それから魚の類いだ。
だったら、この珠はなぜ、
そう考えたところで、昨夜の
人間ではない
そこまで考えて、
「あっ、ぐぅ」
とりあえず起きてみるか、と身体を動かしかけて、
節々が軋み、腰が痛みを訴えてくる。耐えきれなくて寝台に再び沈む。尋常ではない身体の理由はすぐ思い当たった。
昨夜、
思い返すだけでいたたまれない。押し寄せてくる羞恥に耐えきれず悶えたいところだが、身体がいうことを聞いてくれないから困る。
せめてと手近の枕に顔を埋めて呻く。それでなんとか、ほんの少しだけ感情を発散できた。
やっと気持ちが落ち着いて、枕から顔を離す。今更だが寝台を見回すと、
先に起き出して、どこかへ行ってしまったらしい。そのことにほっとしたような、心細いような心持ちになる。今まで経験したことがない感情に戸惑いを覚えるが、このままじっともしていられない。
襲ってくる全身の軋みを堪えて、そろりと寝台を降りた。しっかりと両足が床に付くのを確認する。足の感覚はある。大丈夫そうだと判断して、立ち上がった。
「う、わっ、いたぁっ!」
足に込めた力が、立った瞬間に抜けた。
敷物の上でずるりとへたり込む。その拍子に腰の痛みがひときわ身体に響き、思わず悲鳴を上げてしまった。
悲鳴に反応したように、寝室の戸の向こうから物音がした。使用人か誰か控えていたらしい。蹲って震えながら顔を上げると、静かに戸が開いた。
「大丈夫か?」
開いた戸口から若い男が顔を覗かせる。優しい声音に首を横に振ると、彼はゆったり微笑んで寝室に入ってきた。
「痛みで腰が抜けたようだな」
「はい……」
「仕方のないことだ。どれ、寝台に戻してやろう」
青年はへたり込む
腰を庇いながら慎重に寝台へ戻る。どっと疲れが押し寄せて、
「あの、あなたは、どなたですか?」
気になって、寝台に腰掛けて見下ろしてくる男に訊ねる。
男は
間違いなく、彼は
だが、
「俺か。俺は、
「
「そうだ。
「長の奥方様……って」
ふと脳裏をよぎった予測を、
そんなまさか、ありえない。目を見張る
「お前の先例の男の花嫁だよ、
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