第5話 初夜
粛々した婚姻の儀式を終え、続いて
花嫁衣装を脱いで湯浴みをし、寝化粧を軽く施して寝間着に着替えて、跡継ぎ専用の建物にある寝室へと向かう。
案内された夫婦の寝室は、これもまた豪華な空間だった。部屋の最奥には、紅い紗の帳が掛かった大きな
側には牡丹の描かれた雪洞が吊り下げられ、艶めいた光を閨に零している。
「落ち着かない……」
花婿が来るまで楽にしていいと言われたが、はいそうですかとできるはずもない。
しばらくうろうろ室内を彷徨って、
「
のろのろと時間を掛けて一杯の茶を飲み切った頃合いに、寝室の外から使用人が呼びかけてきた。
「若様が参られました」
跳ねる鼓動を抑え、
「……通してくれ」
「はい」
使用人のいらえの後、衣擦れと足音が寝室の戸の前に来た。少し冷えた、春の夜の空気が寝室に流れ込んでくる。
ついに、花婿が寝所へ踏み込んできた。跪く
「顔を上げろ」
凛とした声に従って、顔を上げる。自分を見下ろす花婿は、やはり昨夜の少年だった。
夢でも、嘘でもなかった。突きつけられた事実を認めざるを得なくて、頭がクラクラする。
「俺が花婿で、やっぱり驚いていたんだな」
「まあ……うん、申し訳ないが」
ずばり言い当てられて目を逸らす。少年は表情を変えずに、構わない、と言った。
「
「下界の人間たちと違って俺たち
「まったく。相手方のことを訊ねるという発想もなかった」
それに男の自分が嫁いでいいのかという方が気になって、相手のことなど二の次だった。
「それより、本当に私が君の花嫁でいいのか。見ての通り、私は男なんだが?」
「ああ、そのことか」
少年は頷きながら、
並んでみると、やはり体格差がある。まだ成長しきっていない少年の背は、
「俺はあんたが良いと思った。あんたは美しい。阮咸が上手いし、側に置いておけば心地良さそうだ。だからもらい受けると決めた」
少年は臆面も無く、
「長の伯父も婚姻を認めた。あんたは何も気にしなくていい」
「いやいや、気にするだろう。見目が歳上なのはまだいいとして、同性だぞ?」
「だからどうした」
きょとんとしている少年に、
「……一応聞くが、いいか」
「どうした」
「お前、子の作り方は習っているか?」
「とっくに手解きは受けているが、何か」
「習っていてそれかよ!?」
思わず、
「なんだ、子の心配をしていたのか」
「当たり前だ! 婚姻は血を交えて両家の誼みを深めるものだぞ!?」
「それで?」
「子が成せないと困るだろうがッッッ!!」
「確かにな」
少年は
「だが、心配しなくていい。俺とお前なら問題にならん」
「なあ、私の言ったことを聞いていたか?」
「聞いていた。あと、俺のことはお前ではなく
「なら
わかるだろう、と言いかけた
腕を引かれて引き寄せられ、中途半端に開いた唇の合間に舌先が滑り込む。
未知の感触に、
ひとしきり吸われた唇が離れる。完全に脱力した
見た目に反して力強い腕が
「おいっ、何をっ」
「大人しくしていてくれ。寝台に運ぶ」
「うわっ!」
あっという間に寝台に連れて行かれる。柔らかな
「安心しろ。こう見えて、閨の作法は心得ている」
寝間着の薄物の襟に、褐色の指が掛かる。慌てる
顕わになった白い胸元に、
「ひ、っ」
堪らず喉から溢れた声の高さに驚く。まるで、生娘のようだ。自分のものとは思えなくて、口元を出て塞いだ。
「怯えてくれるなよ」
成熟した雄の仕草だ。幼さを残した少年の姿との不釣り合いさに、目を奪われる。
「
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