第1話 身代わり花婿
(困ったことになった……)
岩の目立つ山の狭い道を、花嫁行列が進んでいる。
連なる人々の衣装は、慶事を表す
一行の先頭に掲げられているのは、花嫁の一族の紋章が描かれた旌。楽を奏でる楽人を伴って、華やかに道程を歩んでいた。
そんな豪華な花嫁行列の、中心。めでたい紅で彩られた女輿の御簾の奥で、
今朝方着せかけられた、豪華な衣がやけに重い。
重みに負けた肩に、
しかし、婚礼衣装を着る
そんな
にも関わらず女物の婚礼衣装を着て、女輿に乗っているのにはわけがある。
妹の身代わりとして、これから嫁入りするのだ。
本来の花嫁は、
交易と農業を得意とする
そんな二つの一族だから、友好の証として定期的に婚姻を交わす習わしがある。
おおよそ百年に一度、
その年に女児をもうけた家のうち、
赤子のうちに花嫁と決まった
妹は美しく素晴らしい娘に成長した、のだが。
嫁入り目前の十六の春。妹は、恋を知ってしまった。
その相手は、
かねてから若者は、穀物を扱う商家である
恋には落ちたが、妹も若者もそれぞれの立場を重々理解した。誰にも気取らせず、静かにひっそり想いを交わし、愛を深めていった。
その周到さはかなりのもので、一番妹の側にいた
気付いた時点で咎めるべきだったが、
そう思ってしまったから、
若者と示し合わせ、夜陰に乗じて妹を彼の待つ村境まで連れ出す。
できたことはそれだけ。
でも
翌朝、事態が露見して一族の者たちに捕らえられてしまったけれど、後悔はしていない。
自己満足とはいえ、自分の正しいと思うことをしたのだ。どんな罰も受け入れる覚悟はできていた。
(でも、だからってな)
まさか罰として、逃げた花嫁の代わりに自分が選ばれるとは予想もしていなかった。
しかし男だ。正真正銘の男だ。花婿にはなれても、花嫁にはなれない。
今回の婚姻の相手は、
盟約が破綻してしまう、と訴えても無駄だった。逃げた妹の罪は、兄が償うべきだとはねつけられた。
なんと驚いたことに、男が嫁いでも支障はないらしい。古老いわく、数代前、病に倒れた姉妹の代わりに男が嫁いだ先例があるのだとか。
だから、
観念して嫁げと言う族長や古老を前に、
(嫁ぎたく、ないなあ)
胸を潰すような
重い
街から送り出されてもう五日。今日の夕刻には、
着いたら最後、どんな目に遭うかはわからない。
せめて相手側が、怒らないでくれますように。
怒らせてしまうにしても、痛い目には遭わされませんように。
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