私は秋が好き

ria

『私は秋が好き』

 私は秋が好きだ。


 春は良くない。だって新しい季節だから。せっかく自分の居場所を作ることができたのに、またゼロから作り直さなければならない。毎回、じゃあ今までの私は何だったのだと、虚しい気持ちになる。それに虫も増えるし、花粉だって辛い。

 夏は良くない。あまりにも暑すぎて、やる気というやる気が削がれてしまう。汗のせいで、衣服が肌にまとわりつくのも厄介だ。電気代だって馬鹿にならない。それと、食卓に『冷やし』が増えるのも、いかがなものかと思う。食事の真髄は、温かさではないのか。

 冬は良くない。まず朝起きることが難しい。何枚も着込んだ衣服は、動き辛くて仕方がない。それと、イベントが多すぎる。世間の浮かれたニュースを見る度に、自分を否定されたような気になる。

 その点、秋は良い。暑くもなく、寒くもない。何より静かだ。朝も昼も夜も、寂しい私を咎めたりしない。時間の流れさえ、緩やかに進んでいるように感じる。そして景色が綺麗だ。赤、橙、黄が街を染めあげる。私を包んでくれるような色。あと、食べ物だって美味しい。スイーツまで美味しい。

だから私は秋が好きだ。


 クローゼットの中、薄手の長袖を見つめる。夏真っただ中に待ちきれなくて購入した、新しい仲間。それを手に取ると、姿見の前で自分に重ねる。まだ訪れていない、でも遠くない未来の自分を見つけ、心が躍った。

窓を見つめると、夕方だというのに、紫の影を落とし始めている。もうすぐ夏が終わる。緩む口元のまま窓を開けると、冷たく乾いた風が、部屋に舞い込んできた。

テレビからニュースが流れる。


「記録的な猛暑も今週末には終わりそうです。しかし東日本や西日本を中心に、冬型の気圧配置が強まる時期があり、早くも冬を感じさせる気温となりそうです──」

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私は秋が好き ria @riaria_14

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