精魔石採集

 ミルクが『はい』と『いいえ』を覚えてから、僕は少しづつミルクに言葉を教えていった。なんとかミルクとコミュニケーションがとれないかと考えている。


「なあミルク」

「アンリ?」


「これから仕事だけど、一緒に行く?」


 因みにミルクは、『仕事』『一緒』『行く』と言う単語で理解している。これで通じるかどうかは謎だ。

 

「行く、はい」

「おお、行こう行こう!」


 僕はミルクを両手でそっと差し出すと、ふるふるとミルクがその手に乗ってくる。スベスベのマシュマロボディがとても心地よい。僕はゆっくり、そおっと、ウエストポーチに入れてみた。


「どう、ミルク、大丈夫?」

「だい、じょうぶ?」


「そうか大丈夫、わかんないね……」

「だいじょぶ?」


 まあ、見た感じ大丈夫そうだな。……小ぢんまりしていて可愛い。


 僕はミルクを連れて、今日は鉱物採集だ。


 鉱物採集は薬草採集よりは実入りが良い。ミルクの餌の薬草も確保しなさればならないので、薬草採集の方が勝手は良いのだが、薬草は採り過ぎても良くないのだ。


 と言うわけで、やって来た。


 コーンワル鉱山。精輝銀と呼ばれる魔力伝導率の高い鉱物や、金剛鋼と呼ばれるとても硬い鉱物が採掘されている鉱山だ。それらは高額で取引される為に、国で管理されているので、採集系のクエストで依頼されることはない。


 僕がこの山に来た理由は、採掘場ではなく、その渓谷で稀に採集出来ると言う、精魔石を探しに来た。精魔石と言うのは、精霊が好んで良く触れる石のことを言う。他の石と違って軽く魔力を帯びたもののことで、これを魔物が口にすることで成長を促すとされている。

 結局ミルクは、薬草以外のものを口にしておらず、ミルクの育成にあたって不安を感じたからだ。


 しかし、採集するにあたって、一つだけ問題がある。


 そして今、僕はその問題に直面しているのであった。


「モンスター……」


 そう、魔物モンスターとの接触エンカウントを避けては通れない事だ。


 しかしまあ、僕は騎士団に所属していたこともあり、中でもタンクと呼ばれる耐久専門職だ。身長二メートル強で百キロを超える体躯の僕は、大抵の魔物の敵ではない。ゴブリンやコボルトなど、襲いかかって来たとて、僕にはほとんどダメージが通らないのだから。


 たまにミルクのいるポーチを狙って来る敵だけ気をつけておけば、相手すらする必要もないだろう。


 そんなわけで、僕はのしかかる魔物を無視して、精魔石の採集に専念した。


「ミルク、大丈夫か?」

「ミルク、だいじょぶ、はい。アンリ、だいじょぶ?」

「うん、僕は大丈夫」


 ポーチ越しに会話をする。


 僕はそれなりに精魔石を手に入れたので、暗くなる前に帰ろうとしたんだ。


「さて……」


 と、僕が立ち上がった時、信じられないものを目にする事になった。

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