第15話




 あれから、月日は流れた。



 どれくらいのスピードで進めば、もう一度彼に会えるだろう。


 どれくらいのスピードで歩いていけば、もう一度「亮平」と呼べるだろうか。



 キーちゃんと急いで乗ったバスは、いつの間にか海の景色を横にしていた。


 ここがどこの海なのかは見当がつかない。


 須磨の海はここから遠いのだろうか。


 この海はどこに続いているのだろうか。


 私は、しばらく病院に通い続けてた。


 学校を休む日もあった。


 今にも亮平の目が覚めるかもしれない。


 そう思うと、一日でも早く目を覚まして、歯みがきをする。


 206号室に向かう。



 今回のテストは、すごくいい点数だったんだよ?


 彼とお揃いのキーホルダーを買ってみた。


 肩にかけたショール。


 思いきって買ったジーンズはピチピチで、少しだけ痩せようと夜の炭水化物を避け始めた。



 あれから私のそばで、色んなことがあった。


 いろんな気持ちの変化があった。


 色とりどりの日常を切り取って、剥がれた部屋のポスター。


 模様替えしたカーテンの色。



 今すぐに目を覚ませば、私は彼に向かって笑顔でいられる。


 今すぐに目を開ければ、元気な姿を見せられる。


 少しだけ部屋の温度を下げよう。


 季節が移り変わって新しい夏。


 私の高校生活も、もうすぐ2年目になる。


 冷房の効いた部屋のなかで、「暑くない?」、そう細やかに話しかける。


 私は元気だよ。


 亮平はどう?


 あれから何度か、病院の部屋が変わった。


 部屋の窓から見える景色が変わった。


 ベットの横で教科書を開いて、一緒に勉強している気になった。


 学校を休む代わりに、「病院で勉強します」って先生にお願いしてみたら、すんなりオッケーをもらえたから、目が覚めたときは、私の代わりにきちんとお礼を言っておいて。


 ほら、私は人見知りだしさ?


 面と向かって、明るい一言をアップテンポで言ってみてよ。


 バカみたいにだらしない格好で、自由気ままに生きている亮平の姿を、今すぐにでも見たいから。



 ねえ、亮平。


 今はどんな夢を見てる?


 私が隣にいることはわかる?


 いつの間にか、誰が見ても痩せている体になったね。


 着ているパジャマがブカブカだね。


 体の垢を拭き取ってあげる。


 目が覚めたときに、少しでも嫌な思いをしなくて済むように。

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