陽だまりの午後

第13話




 ◇◇◇




 「ねえ、キーちゃん」



 私たちはバスに連れられて、午後の真ん中を進んでた。


 傍で私の話を聞きながら、なに?と彼女は聞き返してきた。


 

 私は聞かずにはいられなかった。


 私が亮平の元に行かないことは、悪いことなのかな?って。


 今すぐにでも駆けつけて、彼の名前を呼ぶ。


 そうしないことは、間違いなのかなって。



 キーちゃんは言った。


 あんたはどうしたいの?、って。


 その言葉の近くに寄り添いながら、はっきりとした答えを出せずにいる。


 事故が遭ったあの日、彼の隣で、傷ついたその体を見てた。


 揺れる心拍数の横で、談笑する彼の横顔が、朝焼けの日差しのように輝いて見えた。


 キーちゃん、不謹慎かもしれないけれど、あの日ベットの横で、傷ついた彼の近くにいたときに、いつも以上に彼を近くに感じられたんだ。


 誰かに心を許すってことがどういうことなのか、その事の意味を、いまだに探し出せずにいる。


 けれど、誰かの傍で、自然と笑顔が出るってこと。


 何気ない会話。


 何気ない視線の動き。


 そういうものの奥底にある純粋な心のスピードが、きっと、あの瞬間にあった。


 開け放した窓の外を見ながら、明日についてを語り合う。


 私たちはいつも、同じ時間にいた。


 病室のカーテン。


 日が落ちる前の、夕暮れ。


 穏やかな太陽の日差しが、窓越しに微かに煌めいていて。



 「なに辛気臭い顔しとんや」


 「心配してあげとんや」


 「ハハッ。ありがたいこっちゃ」



 あっという間に、時間は過ぎていった。


 その時、亮平が何を言おうとしていたのかは分からない。


 次の言葉を発しようとした瞬間に、彼の喉元が風船が膨らんだときのように膨張する。


 バイクから投げ出されたときの衝撃で、下顎骨を骨折していた。


 骨の破片が左頸動脈を突き破り、血液が首の内部に漏れ始める。


 先生が急いで緊急の措置を施していく。


 慌ただしくなる病室。


 痛みと息ができない苦しみで、彼の頬に伝う涙。



 あの日の穏やかな時間の流れが、刹那で変わった。


 揺れる感情の底で、叫びたいことがここにあるのに、その気持ちはもうどこにも飛び立てない。


 口元から大量の血液がチューブ越しに流れ出る。


 充血する瞳。


 先生たちが言葉を交わして、「急いで!」という言葉が病室全体に響いた。

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