ここじゃないどこか
第5話
私は亮平のバイクに乗せられて、しょっちゅう須磨海岸の風の中にいた。
亮平は海が好きだった。
「しっかり捕まっとき―や!」
滑走するバイク。
ヘルメット越しに靡く海の景色が、風を切りながら泳いでいた。
必死に亮平の腰にしがみつきながら、海岸沿いを一緒に走った。
揺れるエンジンの音に寄り添う。
亮平の肩越しに見える須磨の水色。
声高々に亮平は前を見てた。
まるで天井のない空を指差して、世界がこんなにも青く色付いていることを叫ぶように、一直線にかけ走る。
エンジンはますます大きく鳴り響いて、澄みきった空気を切り裂いていく。
その清々しい爽やかな風の向こうで、砂浜の磯の匂いは私たちを後ろから追いかけた。
「どこまで行くん!?」
亮平はいつもそれに答えなかった。
私をどこまでも連れ去っていこうとする強気な姿勢は、ホイールの回転に任せて滑らかに地面の上を滑る。
亮平に連れ出されて見た海の景色が、いつもどこかに、明るい世界を連れてきた。
海を渡っていく船の汽笛や、波の音が、いつもこの耳のどこかに聞こえた。
エンジンはまだ切れない。
どこまでも高く鳴り響いてる。
それと同時にアクセルを踏む、スピード。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます