ここじゃないどこか

第5話



 私は亮平のバイクに乗せられて、しょっちゅう須磨海岸の風の中にいた。


 亮平は海が好きだった。


 「しっかり捕まっとき―や!」


 滑走するバイク。


 ヘルメット越しに靡く海の景色が、風を切りながら泳いでいた。


 必死に亮平の腰にしがみつきながら、海岸沿いを一緒に走った。


 揺れるエンジンの音に寄り添う。


 亮平の肩越しに見える須磨の水色。



 声高々に亮平は前を見てた。


 まるで天井のない空を指差して、世界がこんなにも青く色付いていることを叫ぶように、一直線にかけ走る。


 エンジンはますます大きく鳴り響いて、澄みきった空気を切り裂いていく。


 その清々しい爽やかな風の向こうで、砂浜の磯の匂いは私たちを後ろから追いかけた。



 「どこまで行くん!?」



 亮平はいつもそれに答えなかった。


 私をどこまでも連れ去っていこうとする強気な姿勢は、ホイールの回転に任せて滑らかに地面の上を滑る。


 亮平に連れ出されて見た海の景色が、いつもどこかに、明るい世界を連れてきた。


 海を渡っていく船の汽笛や、波の音が、いつもこの耳のどこかに聞こえた。


 エンジンはまだ切れない。


 どこまでも高く鳴り響いてる。


 それと同時にアクセルを踏む、スピード。

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