[名称:口裂け女についての記録――2024/08/10]

[名称:口裂け女についての記録――2024/08/10]




『概要』

全国に流布された都市伝説、口裂け女を基とした怪異実体。基本的な概要は、都市伝説で語られるそれと相違はない。

だが、明確に異なる点として、現実に実在していることが挙げられる。




『出現地域』

《確定地域》日本 韓国 中国

《未確定地域》アメリカ フランス




『被害報告』

2004/02/08 ■■県■■市 清原■■ 34 M

全身75箇所を滅多刺し。凶器は包丁と推定される。死亡。


2004/05/14 ■■県■■市 田中■ 14 W

四肢切断。口を耳元まで切り裂かれた状態で発見。死亡。


2004/06/01 ■■県■■■市 吉岡■ 52 W

頭部欠損。首から下のみの状態で発見。未だ頭部は発見されていない。死亡。


2004/06/08 ■■■県■■市 奈良坂■■■ 11 M

行方不明。目撃証言と痕跡から、口裂け女によるものと断定。未だ発見されていない。生死不明。


2004/08/24 ■■府■■市 西田■■ 21 W

胴体切断。第三腰椎から上のみ発見。下半身は未だ発見されていない。死亡。


2004/10/12 中国■■省北部 李■■ 8 M

全身打撲。目撃証言から、市中を引き摺り回されたことが判明した。遺体は損傷が酷く、正視に堪えない。死亡。


2004/11/30 ■■県■■市 前谷■■ 30 M

局部切断。貴重な生存者であったが、精神障害により対話不可。よって詳細は不明である。2005/04/03、自決。


以下214件は[口裂け女による被害 詳細報告書]に記載。この資料では割愛します。




『具体報告』

《目撃証言》

黒い長髪、長身痩躯。

服装に関しては様々だが、概ね全身真っ白い服か、真っ赤な服であることが殆どである。

マスクも付けているようだが、マスクを外した姿の目撃証言は存在していない。


《音声記録》

以下は、目撃証言の音声記録を文字に起こしたものです。


【2005/02/03 角田■■ 41 M】

「――では、録音を開始しました。よろしくお願いいたします」

「あぁ、よろしく」

「早速ですが、あなたが何を見たのか、教えていただけますか?」

「女。女だ。化け物みたいな女」

「もう少し、具体的に教えていただいてもよろしいでしょうか?」

「具体的……髪が長くて、全身、真っ白い服を着てた。幽霊が着てる、和服みたいなやつに似てたな。背は、俺(176cm)より高い……2メートルくらいだった。あれだよ。映画の貞子に似てる」

「映画、『リング』のことですね?」

「あぁ、そんなタイトルだったな。顔は普通に見えてたけど、アレに似てるんだ」

「どこでソレを見たのかを教えていただけますか?」

「場所は■■……分かるか? ■■市の」

「はい。私も地元はそちらですので」

「本当か!? 俺もあそこなんだ! 見た感じ同年代だよな。学校は■■■か?」

「懐かしいですね。よく■■池で遊んでいた記憶があります」

「おいおい本当かよ!? じゃあ、■■先生とか覚えてるか?」

「えぇ、髪のことを揶揄って引っ叩かれたことがあります」

「ははは!」


(以下、暫く無関係な雑談が続いたため、省略)


「そういえば、当時口裂け女が流行りませんでしたか?」

「……あぁ、そういえば、そんな噂が――」

「……角田さん?」

「そうだ。口裂け女だよ! 俺が見た女!」

「口裂け女、ですか?」

「そうだ! 背が高くて真っ白い服。そうだ、マスクも付けてた!」


(角田氏が一時錯乱したため、落ち着くまで省略)


「……落ち着きましたか?」

「あ、あぁ、済まなかった」

「ではもう少し、その女性について詳しく教えてください」

「あぁ、そう。何と言うか、頭がデカいんだ」

「頭、ですか? 背ではなく」

「背も高いが、頭もデカい。確かに、肩幅と同じくらいだった。明らかに、身体とバランスが悪いんだよ」

「肩幅と同じ、ですか」

「信じられないと思うが、本当なんだ。それが、何か赤いモノを、引き摺ってた」

「……」

「赤い、クッションに見えた……柔らかい生地の、引っ張ると伸びるクッションに」

「角田さん、無理は」

「でも、クッションじゃなかった。よく見たら、アイツが掴んでいたのは人の手だったんだ。道に真っ赤な線ができていた。あれは血の跡で、あのクッションは血で真っ赤になるまで引き摺られた人間だった」

「……それを見た後、あなたは」

「覚えてない。多分、逃げ出したんだと思う……なあ、■■さん、あの引き摺られてた人は」

「既に、遺族の方に引き渡されています」

「そう、か。それなら、良かった。あぁ、良かったよ」

「……まだ、他に覚えていることはありますか?」

「いや、もうない。何もないよ」


(角田氏が一切の問答に応じなくなったため、終了)


他音声記録は[口裂け女による被害 詳細報告書]に記載。この資料では割愛します。




『■■レポート』

あー、これで良いのかな?

音声入力には馴染みがないが、まあ論文というわけでもない。レポートで形式にこだわるのも野暮というものだからね。


さて、このレポートは怪異実体、そしてその代表例である口裂け女について述べるものだ。

もし、何らかの経緯で誤ってこの資料を見ているなら、今すぐに閉じることをオススメする。その方が、お互いと、世界の為というものだ。


では今度こそ、まずは怪異実体について話そう。

怪異実体とは、端的に言えば現実化した嘘のことだ。

都市伝説、あるいは噂や伝承。神話なんかもそうだね。

人に語られるモノは、どんな形であれ信仰されることで形を得る。


例えば、たかだか数百年前まで疫病は呪いや祟りと呼ばれていただろう?

現代人が聞けば笑ってしまうような信仰も、当時はそれこそが事実だったのさ。

地震は地下に住むナマズが原因だったし、天気は神の気分で変わっていた。

それが、病原菌や活断層、気圧という、より尤もらしい理屈、信仰に人が流れ、新たな事実として定着したんだ。

言ってしまえば、現代は神秘ではなく科学信仰が優位、という話でしかないわけだよ。まあ、コレを言うと科学屋に睨まれるんだがね。全く、科学信者は頭が固くて困るな。


こほん。

ともかく、口裂け女もまた、神秘への信仰から生まれた、あるいは神の一種なんだ。

まあ、神と呼ぶのは識別としてあまりに乱暴なので、便宜上由来を重視して、我々は怪異実体と呼んでいる。


怪異実体は性質上、その伝承に則った力を持つことが多い。

人から生まれたものだからね。意識していないものが反映されることがあっても、未知が発生することはまずないと言っても良いだろう。

故に口裂け女も、都市伝説として語られるものと大した差はない。

度重なる被害は、人に危害を加える、という語りが拡張されたものだろう。

凶器は大体の場合、包丁。鉈や斧を使うこともあるようだが、頻度は少ない。

児童や欠損した部位が行方不明になっているのが不可解だが、おそらくは二口女と呼ばれる、口裂け女の亜種として語られる都市伝説と混ざったのだと考察される。

二口女は、頭に二つ目の大きな口を持つとされ、対象を捕食されると語られる。

頭が大きかったという目撃証言があることから、違和感のある仮説ではないだろう。


……口裂け女についてはこんなところか?

次に口裂け女の確保についてだが、これについては殆ど不可能に近い。

元々、口裂け女は神出鬼没が代名詞のようなものだ。

足を使って物理的に移動しているわけではないのだろう。県境や国境どころか海すら越えるのだから。

そもそも見つけられないし、仮に捕まえたとしてもすぐに逃げられる。

よって、確保ではなく隠蔽を主として動く。

これは決定事項として、既に通達済みだ。


あとは……対処法くらいか?

これについては安心して欲しい。

怪異実体は都市伝説と大して変わらないのだから、べっこう飴でも持ち歩いていれば問題はない。

渡して即座に逃げ出せば、伝承通り逃げ仰るだろうさ。


よし、今度こそこんなところだな。

では、このレポートを結論の代わりとして、本記録への記載を終了とする。

またいずれ、どこかで会おう!














『追記』

2024/10/13

■■博士の遺体を確認。

■■■市内某所に磔にされ、遺体の口は耳元まで裂かれていた。

犯人については推察するしかないが、おそらくはフィールドワーク中に口裂け女に遭遇したものと思われる。


また、現場に蟻に集られたべっこう飴が落ちていたことから、口裂け女への他の対策法が求められる。

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