第8話 国民の叫び

宮殿の門が破られ、暴徒が押し寄せたその日、国民の叫びはついに頂点に達した。ダリアスの無策と権力者たちの横暴に対する怒りが、抑えきれない噴火のように爆発したのである。国民たちは飢え、苦しみ、失望し、ついには王を守る宮殿さえも攻撃対象とするに至った。


「こんな国にしたのは誰だ!」

「俺たちの血と汗はどこへ行ったんだ!」


叫びながら民衆は宮殿へと殺到した。豪奢な装飾に手をかけ、食料や財宝を奪い、王の象徴たるものを次々と破壊していった。かつての王国の栄華を支えていたものは、すべて国民の手で粉々にされていく。


ダリアスは、その騒ぎを遠くから聞きながら、重い足取りで宮殿内を歩いていた。心の中で何かが壊れていくのを感じていたが、どうすることもできなかった。国民の叫び声が宮殿内に響き渡り、彼の心を締めつけた。


「私が、彼らをここまで追い詰めたのか…」


その現実に向き合うことができなかった。彼は何度も自問した。もし、自分にもっと強い信念があれば、この結果は避けられたのだろうか? もし、あの時、権力者たちに立ち向かう決断をしていたなら、国民を守ることができたのだろうか?


その答えを知ることはできなかった。今や全てが崩壊しつつある状況で、ダリアスには後悔しか残されていなかった。自分の無力さを噛みしめながら、彼は宮殿の高い階段を上り、自室へと戻っていった。


一方、国民たちは宮殿を荒らし回る中で、ついにその中心部へと到達した。彼らの怒りはもはや収まることを知らず、王への復讐を果たそうとする者たちが集まっていた。彼らの叫びと憎悪は、一瞬たりとも静まることはなかった。


「王はどこだ!」

「ダリアスを引きずり出せ!」


その声が響き渡る中、ダリアスは自室の窓から外を眺めていた。国の大部分はすでに他国の侵略によって占領され、残されたわずかな土地すら国民の手で破壊されつつあった。かつて栄光を誇った王国は、今や瓦礫と化そうとしていた。


「私は、何をしてきたのだろう…」


彼の手は震えていた。自分が王として選ばれた時の誇りと夢は、今や影も形もなく、ただ無力な自分を嘆くしかなかった。王としての自覚を持つことなく、流されるままに生きてきた結果が、この惨状を招いたのだ。


その時、扉が激しく叩かれた。外では暴徒が迫り、王を引きずり出そうと叫んでいる。ダリアスはその音に振り返りながら、自らの最期を感じ取っていた。


「王よ、逃げるんだ! まだ間に合う!」


唯一の忠実な側近が駆け込んできた。だが、ダリアスは動こうとしなかった。彼には、もう逃げる場所もなければ、逃げる理由も無かった。彼はすべてを失い、何も守るものが残っていなかった。


「いや、私はここにいる。」


そう静かに告げると、ダリアスは窓から国民たちの様子を見下ろした。かつての王国は、完全に崩壊しつつあった。人々はかつて自分を信じ、王国の未来を託してくれていた。だが、その信頼を裏切り、国をこの状態にまで追い込んだのは自分だという現実が、今さらのように重くのしかかっていた。


「王よ…どうか…」


側近は涙を浮かべながら必死に訴えたが、ダリアスはただ静かに首を振った。彼は自らの運命を受け入れたかのように、ただ窓の外を見つめ続けた。国民の叫びは次第に大きくなり、彼の心に深く刺さっていく。


「私は、彼らを裏切った。逃げる資格などない。」


その言葉が彼の最後の決断だった。暴徒が扉を打ち破り、部屋に侵入してくるその瞬間まで、ダリアスは自らの過ちと向き合い続けた。

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