第6話 公金の亡者たち

国内の混乱がさらに深まる中、権力者たちは依然として自分たちの利権にしか興味を持たなかった。国民の生活が苦しさを増す一方で、宮廷では公金を吸い上げ、私腹を肥やすことだけが話題に上がっていた。ダリアスはその様子を目の当たりにしながらも、もはや何の行動も取れなかった。


「このままでは国は崩壊してしまう…」


ダリアスは心の中で何度もそう考えたが、その考えは行動に結びつくことはなかった。王としての責任を果たすどころか、彼はすでに周囲の権力者たちの手中にあり、彼らの意のままに動かされるだけの存在となっていた。


その日も宮廷の会議では、国の未来についての議論はほとんど無く、権力者たちが自らの利益をどう確保するかが話し合われていた。マクシム侯爵を中心とする一団は、新たな公共事業を提案したが、その実態は自らの企業や関係者に利益を還元するためのものだった。


「このプロジェクトが成功すれば、国全体の経済が活性化し、国民も喜ぶことだろう。」


マクシムはそう言って、ダリアスに提案書を差し出した。だが、その裏にあるのは、莫大な公金を私的に流用する仕組みだった。ダリアスはそれを知っていたが、彼にはそれを止めるだけの意志も力もなかった。


「…分かった。それで進めてくれ。」


彼の言葉に、権力者たちは微笑んだ。彼らの目には、ダリアスがもう完全に自分たちの手中にあることが明らかだった。


一方、国民はそのような権力者たちの横暴に気づき始めていた。税金はますます重くなり、国民の生活は困窮していった。農民たちは作物を奪われ、労働者たちは賃金が減り、失業者が増えていく中で、宮廷の豪華な宴や権力者たちの贅沢な生活が公然と続いていた。


「何故、王は何もしてくれないのか? こんなに苦しいのに…」


街角では人々の不満が高まり、ダリアスに対する怒りが徐々に暴動へと変わりつつあった。しかし、宮廷の中ではその怒りは届くことはなかった。権力者たちは、国民の声に耳を傾けることなく、自らの利益を追求し続けていた。


さらに悪いことに、彼らは国が危機的状況にあることを知りながらも、自らの資産を海外に移し始めていた。外国の銀行に資金を隠し、自分たちだけは安全な場所へ逃れる準備を着々と進めていたのだ。国が崩壊する前に、自らの財産を守ろうとするその姿勢は、完全にダリアスを無視していた。


「王よ、資金の管理を私たちに任せてください。必要な時に使えるように、より安全な場所へ移しておきます。」


権力者の一人がそう提案したが、その「安全な場所」とは、すでに国外の銀行や資産運用会社だった。ダリアスはその提案に対して、何も疑問を持たずに承認してしまった。彼はもはや何が正しいのかすら判断できない状態に陥っていた。


「…頼んだぞ。」


ダリアスの口から出たその言葉は、もはや無力さと絶望を表していた。彼は自分が国を導くことができないことを理解していたが、今さらそれに反抗する気力も失っていた。


こうして、権力者たちはさらに多くの公金を手中に収め、国民の生活はますます悪化していった。ダリアスの王としての権威は完全に失われ、彼は自らの無力さと共に国の崩壊を見届けるしかない状況に追い込まれていた。


国は弱体化し、外部からの侵略の危機も高まっていたが、権力者たちは自分たちの保身しか考えていなかった。そして、その間にも、国民は飢えと貧困に苦しみ、未来への希望を失っていった。


ダリアスはその光景を、ただ黙って見守るしかできなかった。

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