第5話 見えない敵

国の衰退が目に見えて進む中、ダリアスは次第に別の不安に囚われ始めた。国の内部が混乱に陥る一方で、隣国からの圧力が増していた。国内の混乱に乗じて、他国の権力者たちがダリアスの国を虎視眈々と狙っているという噂が流れ始めていたのだ。


「国境地帯で軍事的な動きが活発化しています。他国が侵略を計画しているかもしれません。」


側近の一人が緊急報告を持ってきた。ダリアスはその報告を受け取ったが、何もできずに黙っていた。これまで国の内政すら思い通りにできなかった彼が、外部の脅威にどう立ち向かうべきか、考えもつかなかった。


「彼らが狙っているのは、我々の資源や領土だ。このままでは国が分裂し、他国に飲み込まれてしまうぞ!」


別の側近が焦りを見せる中、ダリアスはただ立ち尽くすばかりだった。隣国の軍事力は圧倒的であり、彼の国が持つ軍では到底対抗できないことは明らかだった。しかし、それでも権力者たちは国防に関心を示さず、自らの利益だけを守ることに忙しかった。


「国を守るためには、軍を強化し、同盟を組む必要があります。王よ、早急に対応を!」


軍事顧問が懇願するように進言するが、ダリアスにはそれを実行に移す力がなかった。彼の国では、すでに軍隊への資金はほとんど無く、権力者たちがその金を私腹を肥やすために使い尽くしていたのだ。


「…わかっている。」


ダリアスはそう答えたが、その言葉に力は無かった。結局、彼は何も変えられないことを理解していた。そして、国防の強化を主張する者たちも、次第にダリアスに失望し始めていた。彼の指導力の欠如が、外部からの脅威をさらに増幅させていった。


その一方で、隣国の権力者たちはダリアスの国を内部から崩壊させるため、巧妙な策略を進めていた。彼らは国の貴族や高官たちに賄賂を送り、裏で取引を重ねていた。権力者たちは、自分たちの利益を守るために他国と手を組み始め、ダリアスを裏切る準備を進めていたのだ。


「ダリアス王よ、我々のためにこの国を売り渡してくれれば、あなたにも十分な報酬を約束しましょう。」


ある日、権力者の一人が密かに持ちかけてきた取引は、ついに国そのものを売り渡すものだった。隣国の財力と軍事力を背景にした提案に、ダリアスは動揺を隠せなかった。しかし、彼にはその提案を拒否する強い意志も持ち合わせていなかった。


「私には、守るべきものが…」


ダリアスが言葉を途切れさせると、権力者は冷笑を浮かべた。


「守るべきものですか? すでに国民はあなたに背を向け、国は崩壊の一途を辿っています。今なら、まだあなたは報酬を手に入れ、逃げることができますよ。」


その言葉に、ダリアスは強い無力感に襲われた。王としての誇りはもはや形骸化しており、彼が王座に座り続ける意味すら見失っていた。そして、ダリアスの沈黙を察した権力者たちは、さらに圧力を強めていった。


「王よ、選ぶ時間はあまり残されていません。あなたがこの国をどうするか、それが決定する日が近づいています。」


こうして、国の外部からの圧力はますます強まり、内部では権力者たちの裏切りが進んでいった。ダリアスは自らが招いたこの状況にどう立ち向かうべきかを見つけられないまま、ただ国の崩壊が近づくのを感じていた。


彼の目の前に立ちはだかるのは、見えない敵だけでなく、自らの無力さと覚悟の欠如だった。やがて、その脅威は実体を伴い、国を飲み込む準備を進めていた。

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